第4話 おばば様の手紙
11歳になったアルトは、いつも通りおばば様のもとを訪ねた。しかし、おばば様の家の様子がいつもと違った。人だかりができているのだ。
「お願い、通して…通してください!」
人垣をかき分けたその先には、ベッドに横たわり、目を閉じているおばば様の姿があった。周囲の人たちは皆俯いている。
「おばば様!どうしたの?おばば様!」
ベッドに駆け寄ったアルトは、おばば様に治療の魔法をかけようとした。
「っ!っ!………どうして…」
しかし、何度試しても魔法はかからなかった。
おばば様は―――亡くなっていたのだ。
村人たちは、アルトがおばば様に懐いていたことも、おばば様がアルトを可愛がっていたことも知っていた。
そのため、魔法でおばば様を治そうとしているアルトのことを“おばば様の死にショックを受けて放心しているのだ”と思い、そっとしておいた。
その後、村の医師から「おばば様は天国へと旅立った」と知らされたアルトは、ひとり森へと走った。大人も入らない森の奥まで行き、以前作った隠れ家――音を通さない魔法と姿を隠す魔法がかけてある小屋――へと飛び込み、大声で泣いた。
魔法石に、自分に、力が足りなかったから――
もっと上手に魔法が使えていれば――
自分にもっと力があれば――
おばば様は死ななかったかもしれないのに。
大好きなおばば様の顔が、声が、脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消えた。
まほうで、おばばさまをもとにもどせないだろうか
ふと、そんな考えがよぎる。
しかし、こんな不安定な心で魔法を使おうとしても、きっと失敗する。
試すとしても、今はだめだ。
「落ち着いて、アルト。心が揺らいでいると、魔力も揺らいでしまうよ。」というおばば様の言葉を思い出し、懐かしさと悲しさで再び涙が溢れてくる。
しばらく泣いて、日が暮れた頃――医師から渡された封筒のことを思いだした。
「アルトへ」と書かれたそれは、大好きなおばば様からの手紙だった。
アルトへ。
アルトがくれた魔法石のおかげで、あれから私は病気にはならなかったし、アルト自身からもいっぱい元気をもらったよ。だから、私が死んだことを誰かのせいだなんて思わないでほしい。
生き物には寿命というものがあるんだ。これは、誰にもどうすることもできないんだよ。だから、魔法で私を生き返らせようだとか、そんなことを考えちゃいけないよ。
私は十分に生きた。大きくなったアルトの姿を見られないのは少し残念だけれど、今の優しくて魔法の上手なアルトも十分に立派だし、自慢の子だよ。
アルトは、いずれ村を出るつもりでいるんだろうね。きっとその方がいい。
以前、アルトが“魔力持ち”だということは隠しなさいと言ったけれど、それは村の中での話だ。
村の外に出て信頼できる人に出会ったら、アルトが話したいと思ったときに、打ち明けなさい。
強くて優しいアルト。村を出たら、“魔力持ち”として誇りをもって―――胸を張って生きなさい。
おばば様の最後の教えだった。
大好きだったおばば様の死は、アルトに大きな衝撃をもたらした。
おばば様が死んだことに責任を感じ、どうにかして生き返らせることはできないかとさえ考えたアルト。しかしおばば様の手紙が、それらは間違いだと教えてくれた。
おばば様には、本当に多くのことを教わった。これまでにも、そして今回も。
魔法は役に立つし、訓練すれば多くのことができる。が、決して万能ではないのだとアルトは悟った。
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