第36話 生真面目眼鏡君
「アルト君の試験結果ですが、合格は間違いないでしょう。戦闘能力、魔法出力、コントロール…実力の面では、文句のつけようがありません。」
開口一番、ダンテは淡々と告げる。
「少々若すぎるという懸念事項はありますが…Bランク冒険者であるキース氏とのパーティー結成が確約されているのであれば、問題ないかと。」
ダンテの評価にキース、アルト、エメラ、テナがわっと沸いた。
その様子を横目で見ながら、ダンテはカチャリと眼鏡を直しながら言葉を続ける。
「ただ…問題がひとつ。」
「ランクか。」
「はい。」
ギルマスの問いかけに、深刻そうに頷くダンテ。
「通常、新人冒険者はD~Fランクあたりから始めるものです。しかし、彼の戦闘能力は到底そのレベルではない。」
「ああ。一般でなく、特別試験にしておいてよかったよ……本当に。」
ギルマスは最後のひと言を噛み締めるように口にする。
「不本意ですが、おっしゃる通りです。」
「ん-……よし!アルトはとりあえずBランクだな。Aランクにも引けを取らない腕だが、俺の一存じゃあこれが精一杯だ。」
「………そうですね。それが妥当かと。」
熟考した末に、ダンテも渋々だがギルマスに同意した。
「ダンテに試験官を頼んで正解だったな、こりゃ。」
冒険者のランクは一番上がSランク、その下にA、B、C、D、Eと続き、一番下がFランクである。
新人冒険者がBランクからのスタートというのは、前例はあるものの非常に珍しい。更にそれが11歳の少年ともなると、異例どころの騒ぎではない。
生真面目で融通が利かないと有名なダンテが関わっていなければ、間違いなく不正を疑われたことだろう。
「ああ、それは俺も感謝してるよ。ありがとな。」
「これが私の職務ですので。」
キースからの感謝の言葉に、フイとそっぽを向きながら眼鏡を直す仕草をするダンテ。
「よし、やったなアルト。俺と同じBランクだ!」
「本当に?やったぁ!」
冒険者として認められ、ランクも確定したところで、今度こそハイタッチして喜ぶアルトとキース。そして一緒にはしゃぐエメラとテナ。
「気持ちはわかるがちょっと落ち着けお前ら。まだ話すことがあるんだ。」
ギルマスに諫められ、ピシッとソファに座り直す一同。
「冒険者としてのルールなどに関しては、冒険者タグを渡すときに説明があります。」
「冒険者タグってのは、冒険者だってこととランクを証明する身分証みたいなもんだ。ホラ。」
アルトが大きく首を傾げていたため、キースは小声で説明を付け加え、首に掛けていた金属製のプレートのようなものを見せた。
「それから、今回はBランク冒険者であるキース氏からの推薦であったため、試験前の身元確認は省略しましたが…Bランク以上になった冒険者についてはギルドが身辺調査を行います。」
「身辺調査?」
耳慣れない言葉に思わずアルトは聞き返した。
「はい。高ランクの冒険者というのは、それだけの強さや、実績をもつ方たちです。国家や民衆への影響力を鑑みて、その人物が高ランク冒険者として適格かを見定める必要があり…」
「おい、いくら実力者でもアルトはまだ11歳だぞ。」
ダンテの難しい言い回しに呆れたように、キースが話に割って入った。
「なっ!私は彼を一人前のBランク冒険者だと認めたからこそ…」
「あーあー、わかったよ生真面目眼鏡君。“一人前”って評価はありがたいが、それでもちょっとは噛み砕いて説明しろよ。…要するに、ギルドが認めた強い冒険者が犯罪者だと困るから、良い人かどうかを調べるよってことだ。」
キースの言い方にムッとした様子のダンテだったが、黙ってキースの説明を見守ることにしたようだ。
「ああ、なるほど。それなら大丈夫です。」
「うん?そうじゃなかったら、何か問題があるのか?」
アルトの微妙な言い回しに、ギルマスが反応した。
話すべきか迷ったアルトだったが、いずれ調べられるのならばと、先に言ってしまうことにした。
マギアの力が発現した頃、両親から不気味がられ遠ざけられていたこと。
兄と自分とでは扱いに差があったこと。
仲の良かったおばば様との別れのこと。
家族に決別を告げ、家出してきたこと。
大まかに話し終えたアルトは、ふぅと息を吐いた。
黙って話を聞いていたギルマスは、眉間を軽く揉むような仕草をした後、ゆっくりと口を開いた。
「…話してくれてありがとう。それじゃあ、アルトの生まれた村での調査には細心の注意を払うよう、念を押しておくとしよう。」
「そうしてくれると助かります。な、アルト。」
「うん!えっと、よろしくお願いします、ギルマスさん。」
「ああ、任せておけ。」
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