第35話 アルトは悪くない
「最後に、全力の魔法とコントロールを見せてもらいます。あちらにある“的”に、魔法をひとつ当ててみてください。」
ダンテの指す先には、四重の円が描かれた大きく分厚い板のようなものがある。
「おいおい、これだけ色々と魔法を使わせた後で“全力”ってお前…」
「キース、僕は大丈夫だよ。えっと、的ってあの円が描いてある板のことですよね?」
キースがダンテに食って掛かろうとしたが、アルトがそれを制止する。
「そうです。できるだけ中心を狙って下さい。では所定の位置へ…」
「【爆炎】…え?」
ダンテの説明は終わったと思い込んだアルトは、早々に魔法を放ってしまっていた。
放たれた巨大な火の玉は真っ直ぐに飛んで行き、的の真ん中に命中して大きな音を立てた。
そして、的の真ん中にぽっかりと大きく焼け焦げた穴を空けた。というか、もはや的の周囲の枠が辛うじて残っているだけの状態だ。穴の直径はゆうに2メートルはあるだろう。
想像以上の威力にギルマスもダンテも、キースまでもが絶句していた。
試験が終わったことで、エメラとテナはアルトに駆け寄ってじゃれつき、きゃっきゃとはしゃいでいる。
(やはり無詠唱…か。その上、この距離から的の中心を正確に捕えた。そして何より、キースの言ったようにあれだけ魔法を行使して尚この威力…)
アルトの魔法の凄さを改めて目の当たりにしたギルマスは、軽く身震いした。
「あの…僕…ごめんなさい。」
早とちりして魔法を放ってしまったことと、的が思ったよりも脆くて壊してしまったこと。
色々とやらかしてしまったことを反省し、しゅんとなって謝るアルト。
「あー…気にしなくていいぞ、アルト。」
見かねたギルマスが、アルトの頭をくしゃりと撫でながら話しかける。
「あの的、もうボロボロだから替えなきゃなって話していたところなんだ。それに、規定よりも近いならまだしも、遠い所から当てたんだから問題ない。むしろ凄いって。な?」
必死にフォローしたギルマスは、キースやダンテに同意を求める。
ちなみに、的は替えたばかりのほぼ新品だったことも、分厚い的に穴を空けられた魔法使いが今までいなかったことも、この場ではダンテとギルマスだけが知っていることだ。
「そうだぜアルト!あんな威力の魔法、俺も初めて見たくらいだ。全力でって言ったのはこのダンテなんだから、アルトは悪くないって!」
指差してくるキースの手を払い、カチャリと眼鏡を直すダンテ。
「む……まぁ、いいでしょう。ギルマスの言う通り、規定の距離よりも倍ほども遠い位置から的の中心に当てた。これは事実です。威力も申し分ない。」
「そうよそうよ!アルトは凄いんだから。不合格なんてありえないわ。」
「にゃあ!」
皆からの励まし?のおかげで、いくらか気を取り直すアルト。
「えっと…ありがとうございます。エメラもテナもありがとう。」
「それでギルマス、結果はどうなんです?」
キースがうずうずした様子で尋ねる。
「まあ待てキース。その辺の話は執務室へ移動してからだ。アルトもダンテも、それでいいな?」
「はい。」
「もちろんです。」
こうして一行はギルマスの執務室へと戻ることにした。
「にしても、何で大斧の柄が折れるんだ?備品管理の担当者に文句言ってやらねぇと…」
(いや、アンタが馬鹿力なだけでしょうよ。)
その途中、何やらブツブツ言っているギルマスと、呆れたような顔をするキースの姿があったとかなかったとか。
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