第33話 冒険者試験
冒険者試験は、ギルドの地下にある試験場で行われる。
今回はアルトの諸々の事情を考慮して、特別にギルマスが直々に試験の相手をすることになった。立会人はキースと、ダンテという名の試験官だ。彼は細身で長身、長髪を低い位置で一つに結び銀縁眼鏡をかけた、いかにも“真面目”といった風体の人物だ。
「悪いな、ダンテ。事情はさっき話した通りだ。」
「承知しています。本来ならば正式な手順を踏んで頂きたいところですが、そのような事情とギルマスの指示ならば仕方がありません。但し、試験の合否に手心は加えませんので。」
「ああ。だからお前に頼んだんだ。」
ダンテという試験官は、生真面目で融通が利かず、不正を許さないことで有名らしい。
だからこそ信用できるということで、今回の試験への立ち合いを彼に依頼したのだ。実際、アルトの特別試験の実施も、はじめはかなり渋られた。
しかし、アルトの事情――
マギアであること。
契約精霊の存在。
ガルザを倒したという実績(このことはダンテは信じていないが)。
一般の冒険者試験にそのような“特殊な少年”が混ざっていたら目立つ。
目立てばトラブルに巻き込まれるだろう、という危惧。
そしてBランク冒険者であるキースの強い要望とギルマスの後押し、そして説得により、ようやく首を縦に振ってくれたのだ。
「それじゃあアルト。とりあえず俺と対戦して、お前の力量を見せてもらう。今回は、精霊の力を借りるのは無しだ。」
「はい。よろしくお願いします。ギルマスさん!」
「審判はダンテに頼もう。キースの話通りなら俺が先に降参するハメになると思うが、その時は攻撃の手を止めてくれ。もちろんお前が降参した時は、俺も止めるからな。何か質問はあるか?」
「大丈夫です。」
ひと通り確認をしたのち、ギルマスは模擬戦用の大斧を構える。
彼の愛用武器は大剣なのだが、使い慣れた武器でない方が手加減になっていいだろう、ということだった。
「双方、準備はいいですか。」
「ああ。」
「はい。」
アルトは大きく深呼吸をして、審判を務めるダンテに返事をする。
「それでは、用意…はじめ!」
「【炎弾】、【身体強化】、それから…」
アルトはまず、目くらましにいくつか【炎弾】を放つ。その隙に自身に【身体強化】をかけてギルマスの攻撃に備える。
「は?おい、詠唱とかないのかよ!?」
ギルマスは【炎弾】を避けながらも、驚きの声を漏らす。
「何ですか?それ。」
“詠唱”という初めて聞く言葉につい聞き返してしまったアルトだったが、その様子にギルマスは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「余裕かよ…ったく!話は後でな!」
――魔法使いは中~遠距離の飛び道具的な攻撃魔法が主な攻撃手段。
キースの話と、詠唱無しで魔法が使えるという事実には驚いたが、恐らく基本的な攻撃手段は他の魔法使いと同様。ということは、懐に入りさえすれば脆いはず。
そう考えたギルマスは一気にアルトとの距離を詰め、大斧を振る。
アルトは避けたが、頭に当たりそうだったため、咄嗟に左手首で防いだ。直撃はしなかったが、大斧はアルトの左手を掠め、微かに軌道を変えた。
「は?」
かなり手加減していたとはいえ、大斧の一振りを素手でいなされたことに驚きを隠せない様子のギルマス。
それもそのはず。大斧を防いだ左手は、厳密には“素手”ではないのだ。
アルトの新しい魔法、【装甲】である。
テナのハンカチに【障壁】の魔法をかけるのを断念した件から、新たに試みていた魔法。球形ではなく、もっと身体に沿った形の防御魔法にできないかと、レカンタの街に来るまでに模索していたのだ。
全身にかけるには厚みと範囲のバランスが難しく、まだまだ発展途上…未完成の魔法である。そのため、今は部分的に分厚く――両腕だけに【装甲】をかけてある。いわゆる“籠手”を装着したような状態だ。
(あっぶなかったぁ…キースの助言通り、腕は守っておいて正解だったよ。後でお礼を言わなきゃ。)
「よくわからないが、手加減しすぎたか?それとも、服の下に防具でも着込んでるのか?何にせよ、次はもう少し強めにいくぞ!」
大斧を構え直したギルマスは、更にアルトとの距離を詰めながら二撃目を振るう。
アルトは【炎造形】で作った短剣でそれを防いだ。
ギィンッ!!
「っっっ!【飛行】!」
さすがに勢いを殺しきれず、そのまま後方へと飛ぶアルト。
模擬戦用に刃を潰してあるとはいえ、それなりに重量のある大斧。それに加減はしていても、実力者であるギルマスの一振り。直撃は防いだが、アルトには重く感じる一撃であった。
吹き飛ばされはしたものの、【身体強化】と【飛行】のおかげで無傷のアルト。空中で体勢を立て直して呼吸を整える。
一方、ギルマスは今の攻防に思考を巡らせて…
(受け止めた!?魔法使いが武器を?いやそれよりも、その妙に赤い短剣どこから出した?というかアイツ飛んでないか?じゃあもしかして、さっき防がれたのもアイツの魔法…?)
…軽いパニックに陥っていた。
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