第3話 できること
8歳になったアルトは村のはずれにある森の中で、一人で魔法の訓練をしていた。
「うーん、今日は水の魔法の練習をしてみようかな。」
20メートルほど離れたところにある木の枝に狙いを定めると、集中して水の球を放つ。すると、放った数個の水の球は見事目標の枝に命中した。
「やったぁ!」
この頃には、ほとんど完璧に魔力を制御できるようになっていたし、体力もついてきていた。そのため、おばば様の家よりも、森の方がもっとのびのびと訓練ができるだろうと勧められたのだ。
色々なことを試していく中で、身体に魔力を集中させると身体能力が向上すると知った。脚に魔力を込めると普段よりも速く走れるし、腕に魔力を込めるとより遠くまで物を投げられるのだ。
また、掌から火や水などを出すこともできるようになった。
魔法を使ってできることがどんどん増えていることを、アルトは実感していく。
時折、腕試しと自活のために野ウサギや野鳥などの小動物を狩ったり、木の実や果物を収穫したりすることもあった。
おばば様がくれた本のおかげで、食べられる木の実や果物、薬草などを見分けられるようになった。
狩った獲物や木の実は自分で食べることもあったし、おばば様に差し入れすることもあった。
ちなみに、このことは他の村人や家族には内緒だ。普通の8歳の少年は一人で森に入らないし、ましてや狩りなどしない。こんなことが知られれば、きっと変に思われたことだろう。
見よう見まねとはいえ料理をするようになったことで、アルトの魔法はより繊細なコントロールもできるようになっていった。
魔法で出した土と火で器を作り、そこへ水を注ぎ、火加減を調節して料理をする。これがどの程度の難易度のことなのか、アルトはまだ知らない。
アルトはおばば様の言葉に従い、ただひたむきに訓練をした。魔法でやってみたいことを試して、できることを少しずつ増やしていった。
◇
10歳になったアルトは、数日おきにおばば様のもとを訪ねていた。
この頃のアルトは、更に多くのことができるようになっていた。
ナイフや矢に魔力を込めて威力を強くしたり、炎や雷を纏わせて攻撃したりできるようになった。それにより鹿や猪、熊などの大きい獣も狩れるようになった。
そのことを知ったおばば様は驚いたが、アルトが怪我ひとつしなかった事実、そして今後は無茶をしないと約束したことで、狩りを続けることを許可した。また、食べきれない量の肉に困っていたアルトに、干し肉の作り方を教えてあげた。
余談だが、アルトのおかげで村の作物が荒らされたり家畜が襲われたりする獣害が減っていたことは、アルト本人を含め、誰も知らないことである。
「おばば様、今日はこれをあげるよ。」
クルミくらいの大きさの、宝石のように綺麗な石。色は透き通った蜂蜜色だ。
「おや、綺麗な石だねえ。これはなんだい?」
「えっとね、本当の名前はわからないんだけど、魔法石とでも呼べばいいのかな。おばば様が元気でいられますようにって願いを込めた、魔法の石だよ。治癒とか病気避けとかの力があるはずなんだ!」
「それはすごい!ありがとうねぇ。」
アルトは自分の魔力を結晶のように固めて取り出せるようになっていた。この蜂蜜色の石もそのひとつだ。
また、一度に使える魔力には限界があること、時間を置けば消費した魔力は回復することがわかった。ただ、比べる相手がいないので、自分の魔力が多い方なのか少ない方なのかはわからない。
寝る前には使いきれずに余った魔力を魔法石にして、とっておくのが日課になった。
相変わらず両親は兄のアーノルドのことばかり可愛がっている。アルトには最低限の衣食住は与えられているものの、とても質素なものだった。
アルトが自分で狩りなどをして余分に食べていなければ、ガリガリの痩せっぽっちな少年になっていただろう。下手をすると、飢えて倒れてしまっていたかもしれない。
両親は、アルトがおばば様の所を訪ねているのは知っていたので、そこで食べているのだろうと思い、気にも留めていなかった。
魔力を制御できるようになったアルトは、もう両親が言っていた“気味の悪い子”ではなくなっていた。しかし、家族よりも他人であるおばば様に懐く様子から今度は“可愛げのない子”と見なし、いよいよ興味を持たなくなっていたのだ。
家に居場所がないと常々感じていたアルトは、12歳になったら家を、村を出るつもりでいる。
そのときのために、もっともっと魔法の訓練をしてできることを増やしていく。そして、食料となる干し肉や木の実、それからいざという時のための魔法石をたくさん蓄えておくのだ。
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