第28話 一角黒豹の子供
「キース、それってどういうこと?」
思ってもいなかった事態に、慌てて尋ねるアルト。
アルトが「なぜ、どうして」と感情的にならなかったことに安心したキースは、言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。
「テナが一角黒豹の子供だってことは話したよな。」
「うん。」
「一角黒豹は本来、Aランクに分類される魔獣だ。テナはまだ子供だが、牙も爪も、魔力だってある。」
アルトはテナの方をじっと見る。確かに短くとも鋭い牙や爪があり、魔力も感じられる。
「魔法も武器も扱えない一般人にとっては、子供であっても“魔獣”ってだけで十分に脅威なんだ。だから、街へ連れて入るのは難しい……というか、断られる可能性が高い。」
「そんな…」
キースの指摘に絶句するアルト。
すると、エメラが閃いたとばかりに手を打って問いかける。
「牙も爪も、普通の猫にだってあるでしょ?ただの黒猫として連れて行くことはできないの?」
「そ、そうだよ!それに、テナは人を襲ったりしないよ。ね、テナ?」
「にゃあ。」
アルトの問いかけに鳴き声で答えるテナ。
「そいつぁ難しいな。エメラの指摘にも一理あるが…微かとはいえ、テナには魔力があるだろう。それに額の角もな。角には俺も気付いたくらいだし、そこそこ実力のある冒険者なら気付いちまうだろう。レカンタの街にはマギアもちらほらいるから、魔力でバレる可能性もある。」
アルトはテナの額にある角をじっと見つめる。角…といってもまだ尖ってもいない、突起くらいのものだ。しかし、見る人が見れば、それと分かるらしい。
「角と、魔力……それなら、どうにかなるかも。」
「え?」
アルトはカバンからハンカチを取り出した。
「おいおい、そんなハンカチ一枚でどうしようってんだ?」
「まあ見てて。」
深呼吸をしたアルトは、ハンカチに手をかざして集中する。
「【魔力遮断】、【治癒】、あと【変身】…よし。テナ、ちょっとおいで。」
アルトは魔法をかけたハンカチをテナの首に巻き、満足気に頷いた。
「キース、これでどう?」
「お、おい、こりゃあ一体…」
キースが驚くのも無理はない。
ハンカチを身に着けたテナの姿は、どこからどう見てもただの黒猫にしか見えなくなっていたのだ。額の突起はなくなっており、爪や牙も心なしか短くなったように見える。
キースにはわからないが、テナの魔力も外部には感じられなくなっている。もちろん、テナの魔力がなくなってしまったわけではなく、感じ取れないように遮断されているだけなのだが。
「なあアルト、そのハンカチは一体何なんだ?」
「普通のハンカチだよ。いくつか魔法をかけたけどね。」
ハンカチに魔法をかける…一般的にはありえない魔法の使い方である。が、キースは「アルトだもんな」と思い、深く考えるのをやめた。
「あー、うん、そっか。ちなみにどんな魔法か聞いてもいいか?」
「「魔力を隠す【魔力遮断】と、怪我をしてもすぐに治るように【治癒】の効果を持たせて、あと角を隠すための【変身】の三つをかけたよ。本当は怪我をしないように【障壁】をかけたかったんだけど、それだと触ったときにバレちゃうからね。」
嬉しそうに話すアルトとは対照的に、引き攣った笑顔で冷や汗を垂らしながら相槌を打つキース。
「お、おう。相変わらず凄いな。(おいおい、つーことはこのハンカチもマジックアイテムってことかよ。)」
「魔力も角も隠れたし、これなら街に連れて行っても大丈夫だよね?」
目をキラキラさせて聞いて来るアルトに、キースはだめだなどとは言えなかった。
「そう…だな。」
「「やったぁ!」」
「ただし!」
喜んだアルトとエメラに、キースが少し声を張り上げて釘を刺す。声に驚いた二人はバッとキースの方を見る。
今度は落ち着いた声で、キースはアルトたちに言い含めるように話す。
「もし万が一、万が一だが…テナが自衛でなく、自分から手を出して人間を傷つけるようなことがあったら、すぐに街から出てもらう。それはテナだけかもしれないし、俺たち全員かもしれないが…いいな?」
幼いアルトにこの言い方は厳しいだろうと、キースも自覚した上で言っている。しかし、討伐も捕縛もしていない魔獣を街に連れて行くということは、それだけリスクを伴うのだ。
Bランク冒険者として、街の住人を危険に晒すような真似はできない――キースの真剣な様子に、アルトたちは神妙な様子で頷いた。
「うん、わかったよ。」
「にゃあ。」
「わかったわよ。キースったら心配性なのね。」
エメラも口では茶化しているものの、聡明な彼女はキースの真意を正しく理解している。
「何とでも言えよ。これで何かあったら俺はランク降格だろうし、アルトも冒険者になれなくなっちまうんだからな。」
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