第19話 テナ
「ところで、ソイツはどうするんだ?」
キースの指差す先には、少し前までアルトの膝の上でスヤスヤと眠っていた黒い子猫…もとい、一角黒豹の子供。
先ほど目覚めたようで、今はぐぐーっと伸びをしている。
「あー、この子にも名前つけなきゃですよね。」
「名前?」
「はい。一緒に旅をするなら、やっぱり名前があった方がいいと思うので。」
こともなげに言ってのけるアルトに、キースは頭を抱える。
「そういうことを聞いてんじゃないんだが…つーか、一緒に旅ってどういうことだ?」
「キースさんの心配はごもっともですし、助言には感謝してます。だけど、やっぱりこの子を放ってはおけないので…親を見つけるまでは一緒にいようと思います。」
アルトは真剣な表情で答えた。
「おいおい…本気か?」
「はい、ここにひとりぼっちで置いていくわけにはいかないですし。この子が嫌でなければ、一緒に連れて行くつもりです。エメラはどう思う?」
「私は構わないわよ。旅の仲間が増えると、賑やかになるだろうしね。」
「ありがとう。」
エメラの言葉にほっとしたアルトは、かがんで子猫に視線を合わせる。
「それじゃあ……君はどうしたい?」
「にゃあ?」
アルトの問いかけに、首を傾げる子猫。
「ここに残る?それとも、僕たちと一緒に来るかい?」
「にゃあ!」
子猫は一声鳴くと、アルトの肩に飛び乗った。
「ふふ、決まりみたいね。アルト、その子の名前はどうするの?」
アルトはしばし考えて、ふと思いついた名前を口にした。
「そうだなぁ…“テナ”っていうのはどうかな。」
「にゃあ!」
上機嫌で返事をした子猫――テナは、アルトに頬ずりをする。
「気に入ったみたいね。」
「よかった。僕はアルト、こっちは風の精霊のエメラだよ。よろしくね、テナ。」
「よろしく!」
「にゃあ~!」
「おい、そんな気軽にっ…て、聞いてねーか。」
完全に蚊帳の外になったキースは、アルトたちの様子を見ながら頭をガシガシと掻いた。
「あー、取り込み中に悪いが、そろそろ場所を変えないか?いくらバリアがあるとはいえ、またガルザの群れが戻ってきたら大変だろ。」
「戻ってくる?」
「ああ。アルトが追い払ってくれたらしいが、奴らがこの辺を縄張りにしてんなら戻ってくる可能性が高い。」
「あれ?えっと…言ってなかったでしたっけ?」
「あん?何をだ?」
噛み合わない会話に、アルトとキースはお互いに首を傾げる。
「えーっとね、アルトは“ガルザの群れはもういない”としか言っていないわよ?」
エメラの言葉で、アルトもようやく思い出した。
自分がガルザの群れを倒したことを言ってしまうと、マギアであることも話す必要があるのでは――そう思って、目覚めたばかりのキースには事実を濁して伝えていたのだ。
「あー、そう言えばそうだったかも。処理のことも話さないといけないし、僕がマギアだってことはもう話したからいいかな。」
「おーい、何の話だ?」
「ガルザの群れはもう僕が倒しちゃいました。」
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