第184話 開かずの大扉
21階層からは、遭遇する魔獣の数やランクが格段に増した。
それでも、Cランク以下の魔獣などアルトたちの敵ではなく、彼らの進む速度はそれまでとさほど変わることはなかった。
むしろ、レシェンタやエメラなどは「やっと張り合いが出てきた」とばかりに生き生きとした様子さえ見せ、サクサクと魔獣を倒してダンジョンの更に奥へと進んで行く。
◇
程なくして、アルトたちは28階層最奥の部屋まで辿り着いた。
「これが、ギルマスの言っていた開かずの大扉だな。」
「思ってたよりもずっと大きいね。」
扉を見上げるキースとアルト、そしてレシェンタたち。
「この部屋も、扉だけってわけじゃないのね。」
アルトの周りをひらりひらりと飛び回りながら、周囲を見回すエメラ。部屋の中には、石像やオブジェのようなものがちらほらと配置してある。
「そうだな。みんなで手分けして、ひと通り調べてみよう。この部屋にはトラップの類は仕掛けられていないらしいが、警戒は怠らないように。」
キースの言葉でみんな散り散りになり、部屋の探索を始めた。
◇
「ちょっと待って、これ……!」
大扉を調べていたレシェンタが、興奮した様子で声を漏らした。
「ん?どうした?」
「ああキース、丁度よかった。」
ただならぬ様子のレシェンタに、キースが歩み寄って声をかけた。
「大扉に彫られているこれ、ただの模様じゃないわ――獣人の国の古代文字よ。」
「古代文字?なんだってそんなモンが…まぁダンジョンだし何でもありか。で、何て書いてあるんだ?」
「わからないわ。」
「はぁ?」
あっけらかんと言い放つレシェンタに、眉を顰めるキース。
「レガルドロスの古代文字だってことはわかるけど、それと読めるかどうかは別問題なのよ。あの国でも、この文字は現在ではもうほぼ使われていないはず。古代文字って呼ばれているくらいだもの。」
「んーーー、なるほど?」
レシェンタの説明に、よくわからないながらも“文字が読めないこと”は理解したキース。
「ダメもとで、ホルンに聞いてみるか。」
「そうね。ついでだから、みんなにも集まってもらいましょう。」
キースの呼びかけにより、アルト、ホルン、精霊たち、従魔たちが大扉の前に集合した。
「――というわけで、この大扉に刻まれているのはレガルドロスの――ホルン達の故郷の古代文字だと思うの。」
説明を受け、まじまじと大扉を見上げるホルンたち。その様子を見ながら、キースが遠慮がちに切り出す。
「なぁホルン、もしかしてコレ、読めたりは……しないよな?」
「読めるよ?」
「だよなぁ。じゃあ紙に書き写して一旦戻…って、え!?読めるのか?」
「うん。」
こともなげに言ってのけるホルンに、バッと全員の視線が集中する。
「隠れ里で暮らしてた頃、みんなで大人たちから教わったんだよ。レガルドロスの外で暮らしていても、祖国の文化を絶やさないようにって。」
「そうだったの。とっても素敵なことね!」
誇らしげに胸を張り、笑顔を見せるホルン。レシェンタに優しく頭を撫でられ、くすぐったそうに、それでいてどこか嬉しそうに、彼女ははにかんだ。
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