第177話 見違えちゃった
無事アースの従魔登録を済ませたアルト。
次に彼が向かった先は、マズルカの宿自慢の大浴場だった。もちろん、宿の主であるマズルカの許可は得ている。
「それじゃテナ、アース、身体をキレイにしようね。」
「がう!」
「コン!」
ただ身体の汚れを落とすだけならば【浄化】の魔法で事足りるのだが、今回アルトはそうしなかった。
なぜなら、従魔たちと向き合い、触れ合う時間を大切にするため――である。
これはアルト個人の主義でもあったし、パストーラからの教えでもあった。
冒険者としての仕事中であれば、効率を重視して魔法に頼るのは構わない。しかしゆっくり時間が取れるときは、自分の目で見て、手で触って、従魔たちのコンディションを確認する。
そうやって習慣的に触れ合うことで、従魔の成長や不調などの機微を敏感に感じ取れるようになるから――と。
テナは健康そのもので、今回の旅でも怪我ひとつしていなかった。
一方アースはというと、怪我はアルトの【治癒】のおかげで完治していた。が、その体躯はスラリとした…というよりも痩せ細っているように見えた。
テイマーだったドウルがまともに食事を与えていなかったのか、あるいは急成長による体力や魔力の消耗のせいなのか…とにかくアースにはしっかり食べさせようと決心したアルトだった。
そんなこんなで、風呂で泥や汗を落としたアルトたち。旅の間は【浄化】である程度の清潔を保ってはいたが、風呂や水浴びの心地よさは格別なのだ。
「ふぅ。これでよし!さっぱりしたね。特にアースは……なんて言うか、すごくキレイになったね。」
「どれどれぇ……あらぁ~っ!すっかり見違えちゃったわ。」
どこからともなく現れたマズルカは、アースの変貌ぶりに感嘆の声を上げた。
「ふふ、皆が見たらきっと驚くわねぇ。さ、早く行きましょ。食堂で待ってるはずよぉ。」
そう言って、楽しげにグイグイとアルトの背中を押すマズルカ。促されるままに、アルトはレシェンタたちの待つ食堂へと向かった。
アルトたちの気配に気づいたのか、会話を中断してくるりと振り向くレシェンタたち。
「あらアルト、お帰りなさ……え?」
「えぇ!?その子って…」
「うん、アースだよ。キレイになったでしょ。」
「コン!」
アルトに撫でられて、嬉しそうに声を上げるアース。
「こりゃ驚いたな。」
レシェンタたちが驚くのも無理はない。
くすんだ薄茶色だったはずのアースの身体、というか体毛の色が――艶やかな純白へと変貌していたのだから。
「ふふ、とってもキレイよねぇ。」
にこやかにそう言うマズルカの背中では、彼の手がアース触れたさにうずうずとしていた。
それに気づいたキースは、やれやれと肩をすくめるのだった。
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