第18話 契約精霊?
「エメラ、契約精霊ってなんだい?」
「あら、言ってなかったかしら?アルトが私を助けてくれたとき、魔力と名前をくれたでしょ?」
アルトはエメラを助けたときのことを思い出してみる。
魔力切れの精霊に触れた瞬間に、光って消えた魔法石。そして目覚めた精霊との会話と、名付け。
「うん。そうだったね。」
「魔力の授与と名付けを受け入れた精霊は、そのマギアと契約したってことになるの。だから、アルトにだけは私の魔力を貸すことができるのよ。」
魔力の授与と名付け。
エメラを救った魔法石は、アルトの魔力の塊だった。
そして、アルトは精霊に“エメラ”の名を与えた。
これによりエメラはアルトの契約精霊となったのだ。
「契約のこと、アルトは知らなかったのか?」
「ええ、全く。あの時はエメラが精霊だってことも、精霊のこともよく知らなかったんです。ただ、一緒に旅をするなら、名前があった方がいいかなと思って…」
「そうだったのか。エメラさんよ、契約するならせめてそう教えてやれよ。」
キースに指摘され、バツの悪そうな表情をするエメラ。
「アルト、ちゃんと言ってなくてごめん。アルトは私と契約するの、嫌だった?もう私と一緒に旅したくない?」
「どうしてそうなるの。エメラとの旅は楽しいから、僕はこのまま一緒に居たいよ。ただ、その“契約”がどんなものなのか、教えてもらえるかな?一応ちゃんと知っておきたいんだ。」
アルトに拒絶されなかったことで、表情がパッと明るくなったエメラ。しかし、浮かれないように自制したのか、神妙な雰囲気で契約について語り始めた。
「わかったわ。えっと…契約者は精霊に居場所と、必要なら魔力を提供する。精霊は契約者の傍に居て、必要なときに魔法を使ったり魔力を貸したりする。少しの間なら離れても大丈夫だけど、それがどれくらいなのかは、試してみないとわからないわ。」
アルトは、それならば何の問題もないと思った。今までの旅でやってきたことと、何も変わらない。
「ちなみに、契約が解除されるのは、どちらかの命が終わったとき。あるいは、精霊が与えられた名と契約者を棄てたとき。私はアルトが大好きだから、そんなことしないけどね。」
どちらかの命が終わったとき…それは理解できる。しかし、もう一方の意味がよくわからなくて、アルトは首を傾げる。
「名と契約者を棄てる?」
「ああ、そりゃきっと“精霊の気まぐれ”って言われてるヤツだな。実際には気まぐれじゃなく、ちゃんと理由があるらしいって話だが。」
アルトの疑問に答えたのはキースだった。
「キースさん、何か知っているんですか?」
「噂話程度だかな。さっきもチラッと言ったが、そもそも精霊は純粋な子供や善良な者を好むと言われている。」
アルトがエメラの方を見ると、エメラはキースの言葉に同意するように、こくりと頷いた。
「だから、契約者が大人になって変わっちまったり、悪事に手を染めたりすると、精霊の方から契約を解除して離れていくって聞いたことがある。“気まぐれ”ってのは、自分が悪の道に堕ちたことを認めたくないヤツが言い出したんだろうがな。」
「ええ、その通りよ。精霊は、邪悪な気配や意地悪な感情には敏感なの。そういう人間が傍にいると、その毒気にあてられて弱ってしまうこともあるわ。たとえそれが、自分が気に入って契約した相手であってもね。」
一緒に居たいと思って契約したのに、いつしか一緒にいるのが辛くなるなんて…それはどんなに苦しくて悲しいことだろうか、とアルトは思った。
「だから耐えられなくなった契約精霊は、契約を解除して離れていくんだと思うわ。本当に気まぐれな精霊は、そもそも契約なんてしないでしょうから。」
「ははっ、それもそうだな。にしても、アルトほどの使い手が悪い奴になっちまうと大変だぜ。エメラ、しっかり見張っといてくれよ?」
しんみりした空気になりかけたのを察したのか、キースが冗談を言って空気を変えようとする。
「失礼ね!アルトは大丈夫よ。でも、もし何かあったら…そうね、その時は私がちゃんと止めるわ。」
「ひどいなぁ、二人とも!僕はそんな風にならないように気をつけるからね、エメラ。改めて、これからもよろしくね。」
「ええ。よろしくね、アルト。」
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