第175話 大きな魚
更新が大幅に遅れてしまい失礼いたしました!
まだまだ寒い日が続きますが、読者の皆様もどうか体調にはお気をつけて。
今更ではございますが、本年もよろしくお願いいたします。
「これは……想像以上に大きな魚が釣れちゃったみたいだね。僕の預かる町でよくもこれだけ――」
そう言って、妙ににこやかな笑みを浮かべるギルマス。
今回の関係者――捕らえたドウルと他の冒険者たち、それに奴隷商らの一味、そしてアルトたち――から得た情報を照らし合わせた結果、今回の事件の大筋が見えてきたのだ。
ドウルをはじめとした数人の冒険者たちは、Fランクの小魔獣を捕獲しては奴隷商に売りさばいて大金を得ていた。
奴隷商は、その魔獣たちを一部の貴族に売却していた。
拘束し、無力化した小さな魔獣を痛めつけて悦に入る…そんな狂気じみた娯楽のために。
性根の腐った貴族連中や奴隷商の欲は留まることを知らず、むしろより強欲に、醜悪に…更なる別の獲物を欲した。
「動物よりも魔獣を、魔獣よりも獣人を、そしていずれは――」
下卑た笑いを浮かべながら、奴隷商の男はそう口にしたという。
それを聞いた警備隊長フォルテは、思わずその場で奴隷商を殴り飛ばしてしまったそうだ。
獣人を奴隷として売買する目的は、単に労働力としてだけではなかったらしい。
そんなわけで、奴隷商の次なる獲物として白羽の矢が立ったのが、ホルンたち獣人だったのだ。
奴隷商の手下たちは予定通り、獣人の女子供たちを捕獲した。
そして、奴隷商の元へと運ぶ道中にアルトたちに見つかって捕まり――今に至ったわけである。
奴隷商や顧客である貴族たちの醜悪さもさることながら、今回の件ではその存在感が一際目立ったものがある。
数々のマジックアイテムだ。
成長した魔獣たちが手に負えなくなる事態を防ぐため、奴隷商は成長を阻害するマジックアイテムの首輪を使用していた。
その首輪は、ドウルがアースに着けていたものと同じものであった。
ドウルは従魔を自分よりも弱い者でいさせ続け、どんなに手酷く扱っても反抗させることなく従えるために、奴隷商からあの首輪を買ったらしい。
奴隷商にしてみれば、首輪の効力や耐久性のテストも兼ねていたらしいのだが。
押収されたマジックアイテムは、件の首輪だけではなかった。
レシェンタが予想した通り、獣人の隠れ里を見つけるために使われた、魔力を感知するマジックアイテム。
また、炎や氷、雷などの魔法の力を秘めた腕輪や剣、槍などが多数、奴隷商の倉庫から発見された。
恐らく、これらのマジックアイテムの力によって、獣人の里で最強の戦士であったホルンの父――クラベスもやられてしまったのだろう。
ちなみに、逮捕の際に押収したドウルの指輪――あれも奴隷商が彼に売り付けたマジックアイテムだったらしく、詠唱なしで雷魔法を放つことのできる指輪だった。
所有しその力を振るえば、実力差のある強者相手でも簡単に倒せてしまう――それほどまでに、マジックアイテムの武器は強力で、それ故に貴重なのだ。
だからこそ、腑に落ちない点がある。
なぜ、これほど多くのマジックアイテムを、一介の商人――奴隷商などが所有していたのか、である。
マジックアイテムは、迷宮から出土する魔訶不思議なアイテムであり、そのほとんどがかなりの高額で取引される貴重品なのだ。
自身の腐った商売に関してはペラペラとよく喋る奴隷商だったが、マジックアイテムの出処に関しては一切口を噤んでいる。
そして、口を噤んだまま―――牢屋の中で命を落とした。
彼に雇われていただけの残党たちは、取引相手の貴族やその他の背後関係など、詳細は何も知らされていなかったらしい。
奴隷商は永遠に口を閉ざしてしまったが、それ故に“言えない何かがある”ということは明白だった。
何者かが、暗躍している。
貴重なはずのマジックアイテムを気前よく提供できる、何者か。
目的は、奴隷商が稼いだ莫大な金銭だったのだろうか。
しかし、あれだけのマジックアイテムを買い集める方が、コストがかかるはずである。
となると、易々とダンジョンに入れるだけの私兵や冒険者を雇っている者か。
貴族か、商人か、個人なのか、組織なのか。
その目的も、マジックアイテムの入手経路も――背後関係については、現状では何一つわかっていない。
これは余談であるが、この時のギルマスの表情を見てしまったフォルテ隊長や数人の警備隊員たちは、背筋が凍るかと思ったと冷や汗を流していたらしい。
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