第174話 しっぺ返し
あっという間に紅玉梟を倒したキースたち。
その間ずっと、マズルカに武器を突き付けられていたドウルは逃げられるはずもなく、いまだ血を滲ませる傷に低く呻き声を漏らしていた。
「さて…っと。」
「ヒッ!」
冷めた表情でくるりと向き直ったキース達に、小さく悲鳴を上げるドウル。そのあまりにも小者じみた情けない姿に、一同は大きなため息を吐く。
そんな中、アルトの隣をするりとすり抜けるように、アースが数歩前に出る。
「アース…」
心配そうな表情で呼びかけるアルトの手に、スリ、と一瞬だけ尻尾を絡ませつつ目配せをするアース。
「っ……な、何だよ。」
あまりにも凛とした涼やかな佇まいのアースに、一瞬言葉を失ったドウル。しかし、その表情はすぐに怯えの色を見せ、声も震えている。
逃げ出さないのは、マズルカが見張っているからなのか、はたまた腰が抜けてしまっているのか…
その時――
アースが片方の前足でトン、と地面を叩いた。
すると、ドウルが足元からずぶずぶと地面に沈んでいき、あっという間に首のすぐ下まで地面に埋まってしまった。
「「「「!」」」」
皆が固唾を呑んで見守る中、アースは更にドウルの元へと歩を進める。
「ヒイッ!!」
ドウルがぎゅっと目を閉じたその直後――くるりと踵を返したアースは、その優美な尻尾でぺしりとドウルの頬を軽くはたき、スタスタとアルトの足元へと戻って行った。
「へ…?」
これまでの所業に対する報復というにはあまりにも、あまりにも小さなしっぺ返し。
間抜けな声を漏らすドウルと、微かに目を見開く一同。
アルトはというと、どこか満足げな表情でアースを抱き上げて撫でている。
「お、おい!何だよ今のは!」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔でがなり立てるドウルに、きょとんとした顔で答えるアルト。
「おじさん、大人なのにわからないの?アースは賢いから、おじさんと同じような暴力はしたくなかったんだよ。」
思いもよらないアルトの言葉に、笑い声を上げるキースたち。
「アッハッハ!そうねぇ、こんな下衆のために、わざわざ同じところまで落ちてあげることないものねぇ。」
「よかったな、アルトとアースが賢くて。お前みたいな小者、復讐する価値もないってよ。」
一方で、わけがわからず首を傾げているホルン。
「え?え?どういうこと?アースはあの男に仕返しするんじゃなかったの?」
ドウルのアースに対する所業を聞いて激しく憤っていたホルンは、アースに加勢する気まんまんだったのだ。
「ホルンももう少し大人になればわかるわ。ああいうプライドだけ高いタイプには、無関心の方が堪えるものなのよ。」
言いたい放題のキースたちにドウルは顔を真っ赤にして何やらがなり立てているが、首の下まで土に埋まった状態では、迫力も何もあったものではい。正に負け犬の遠吠えであった。
「ああそうだ。お前、覚悟はできてるんだろうな?」
思い出したようにドウルに水を向けるキース。
「俺が何したってんだよ!自分の従魔をどうこうしたところで、それが法に触れるってのか!?ギルドにンな決まりがあったかよ!?」
「従魔の件は…まぁ、褒められたことじゃないがな。そもそもお前が逃げ隠れしていた理由は…そっちじゃねえだろ?」
含みのあるキースの言葉に、ギクリとするドウル。
「な、何のことだか…」
しどろもどろに話すドウルに、これでよく今までバレなかったものだと呆れるレシェンタたち。
「身に覚えはあるようねぇ。続きはギルマスと警備隊の前で話してもらうわよぉ。」
マズルカの言葉に逃げられないと悟ったのか、青褪めて項垂れるドウルだった。
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