第173話 紅玉梟(ルビーオウル)
紅玉梟――体長70センチほどの、梟に酷似した姿のEランクの魔獣。
暗闇で光るその双眸は紅玉のように燃えるような深紅色で、羽毛にも深紅色のものが斑に混ざっている。
瞳と同じくルビーの如き深紅色に輝く卵の殻は、その美しさから装飾品の材料として高額で取引される。
冒険者たちから卵を狙われることが多いためか、非常に警戒心の強い魔獣である。
自ら進んで人間を襲うことは滅多にないが、卵を狙う者や不用意に巣に近づく者には容赦がない。
無音の羽ばたきから繰り出される突風や、鋭い嘴や鉤爪による攻撃には注意が必要。
群れを成す習性はないため、人数と装備さえ揃えれば、E~Fランクの冒険者でも十分に討伐は可能といえる。
魔獣とはいえ、相手はそんな紅玉梟だったため、キースたちは楽観的に構えていたのだ。
ドウルが紅玉梟や巣の存在に気づけば、すごすごと引き返してくるだろう――と。
しかし想定外にドウルの悲鳴が聞こえてきたため、慌てて彼の元へと走るキースたち。
紅玉梟の巣らしき大木が見えてくると、傍の地面に這いつくばるドウルの姿が見えた。
真っ先に到着したのはホルンとアルト、そして二頭の従魔たちだった。が、「自分たちが行くまで下手に手を出さないように」とマズルカから釘を刺されていたため、じっと木の陰から様子を伺っていた。
アースは感情の読めない冷めた表情で、ドウルの様子をつぶさに見ている。
少し遅れて追いついてきたキースたちに気づいたアルトは、ちょいちょいと彼らに合図してドウルの方を指さす。
ドウルの顔や腕には幾筋もの切り傷や擦り傷があり、土埃まみれの衣服も所々破けている。
木の枝に止まる紅玉梟は、深紅の双眸で見下ろすようにドウルを睨みつつ、威嚇的に嘴をカチカチと鳴らしている。
すると次の瞬間、音もなく羽ばたいた紅玉梟が滑るように飛んでドウルに近づき、その鋭い鉤爪で彼の肩に深い切り傷を刻んだ。
「ひっ!ひいぃ~~!た、助け…」
ひらりと身を翻し、再度ドウルに向かって突進してくる紅玉梟。それに気づいたキースは、サッとドウルの前に立ちはだかり、その鉤爪を剣で受ける。
「おいおい、冗談だろ。」
剣を振って紅玉梟を遠ざけながら、呆れたようにチラリとドウルを見やるキース。
「想像以上に弱いんだな、お前。」
「へ?」
何が何だか分からず、尻もちをついた体制のまま呆けるドウル。
「あなたまさか、紅玉梟の卵に手を出したんじゃないでしょうねぇ?」
合流してきたマズルカの言葉に、無言でフイと視線を逸らすドウル。
「っ………」
「はぁーっ!呆れた。それでも冒険者なのぉ?」
やれやれと首を振るマズルカの肩をポンと叩きながら、レシェンタも会話に混ざる。
「本来、助ける義理なんてこれっぽっちもないんだけど、あなたには聞かなきゃいけないことがあるの。生きて帰ってもらうわよ。」
「そうそう。」
再び突進してきた紅玉梟を風魔法で振り払いながら、ドウルのもとへとやって来るアルト。
「それにおじさん、まだアースにちゃんと謝ってないよね。そんなのダメだよ。」
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次話の更新は12月27日の予定です。