第171話 解呪(ディスペル)
大きく深呼吸をしたアルトは、首輪に手をかざして呟くように唱えた。
「【解呪】」
その途端――魔力を失った首輪はカチャリと外れ、地面に転がり落ちた。
「何それ…首輪?」
眉を潜めたレシェンタが思わず零した言葉に、ひゅっと息を呑むドウル。
「おい、よせっ!今すぐそれを戻せ!さもないと――」
なぜか急に焦って取り乱すドウルだったが、彼の言葉に耳を貸す者などこの場にはいない。
というよりも、皆の注意は別の所に向いていた―――首輪が外れた途端、アルトの腕の中でアースの身体が目に見えて大きくなりはじめたのだ。
「「「「?」」」」
またもや目の前で起こり始めた不可思議な現象に、驚いて目を見開くキースたち。
「え?あれ?どうして…」
同じく驚いてあたふたするアルトの腕から、ぴょんと軽やかに飛び降りるアース。子猫サイズだったアースは、中型犬くらいの大きさにまで成長した。
スラリとした身体や尻尾はまだ土埃で薄汚れてはいるものの、凛とした佇まいはどこか優美ささえ感じさせる。
「えっと、アース…なんだよね?」
たっぷり十秒ほど目をパチクリとさせた後、一応確認するように問いかけるアルト。
「コン!」
アルトに答えるように一声鳴き、アルトの脚にすりすりと頭を寄せるアース。
「なぁ…魔獣ってのはこんな急にデカくなるもんなのか?」
テナの時もそうだったが――という言葉は飲み込みながら、頭に浮かんだ疑問を口にするキース。
「そんな話、初耳だわぁ。だけど、誰かさんは何か知っているみたいよねぇ。」
「この首輪が関係してそうね。自分の従魔に着けていたくらいなんだから…これが何なのか、知らないはずないわよね?」
「首輪……こんなの、痛かったに決まってる…っ!」
軽蔑、批難、嫌悪――それぞれの感情を込めて、ドウルを睨む一同。
アースを無事解放できたことで、いくらか溜飲を下げたアルトだったが…それでも無言で皆と同様にドウルを睨んでいる。
決まりが悪そうに、ふいと視線を逸らすドウル。先ほどの慌てぶりからして、彼が何かしらの意図をもってあの首輪を使っていたことは明らかだ。
そんな中、アースもすっとアルトから離れ、ドウルに視線を向ける。
その瞳は、狐目…というのを差し引いても、不穏に細められている。
「な、何だってんだ。何をしようってんだよ!」
先程とは打って変わって青褪め、引きつった顔で冷や汗をだらだらと流すドウル。声も裏返り、動揺しているのは誰の目にも明らかだった。
そんな彼に、キースやアルトたちは冷ややかな視線を向けている。
ザリ、とアースが一歩を踏み出したその時――
「…っ!!!」
急にドウルの手元から雷が迸った。
雷の威力を氷が相殺したことでアースやアルトたちに雷が届くことはなかったが、その衝撃でドウルを拘束していた氷は割れてしまった。
自由の身になったドウルは、一目散に森の中の暗闇を駆けていく。
「へへっ…切り札ってのは最後まで取っとくモンなんだよ!」
息を切らしながらそう言うドウルの右手には、鈍い光を放つ指輪があった。
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次話の更新は12月21日の予定です。