第170話 裏切る
「何だ?一体どうなってる?」
何が起きたのかわからず、ドウルは氷漬けのまま藻掻こうとする。しかし当然ながら、その身体はぴくりとも動かせない。
「おい、てめぇ!俺を裏切る気か?とっとと戻って来やがれ!」
それでも口だけはまだ動くとばかりに、相変わらず怒鳴り声を上げながら唾を散らすドウル。
アルトはそんなドウルには冷ややかな視線を投げつつ、腕に飛び込んできたアースをそっと抱きしめる。
「“てめぇ”なんて名前じゃないでしょ。自分が付けた名前も忘れちゃったの?駆け出しの僕が言うのもなんだけど、おじさんってテイマーに向いてないよ。」
「なっ…ガキ、てめ……っ……!」
ドウルの暴言など歯牙にもかけない淡々としたアルトの返事に言葉を失い、目を見開いて口をパクパクとさせるドウル。
そんな二人のやり取りを見て、顔を背けながら微かに肩を揺らして笑いを耐えるキースとレシェンタに、呆気に取られるホルン。
「私もアルトちゃんと同意見だわぁ。それとね、ひとつ覚えておきなさいな。」
一瞬言葉を切り、笑みを引っ込めて真顔になるマズルカ。
「“裏切る”って言葉は、それまでの信頼関係があってこその言葉よ。散々その従魔を虐げてきたアンタに、そんな言葉を使う資格はないわ。」
「同感だな。」
「聞くに堪えない暴言だったものね。」
「あんな酷い扱いしてたら、そっぽ向かれて当然だよ。」
ぴしゃりと言い放たれたマズルカの言葉に、うんうんと頷くキースたち。
一方、アルトは土埃だらけのアースの頭を優しく撫でながら【治癒】をかける。
はじめは反射的に硬直したアースだったが、傷が治る感覚と頭を撫でられる心地良さに、次第に身体の力を抜いていっている。
「?」
ふと何か硬い感触を手に感じたアルトは、アースのボサボサの毛並みをかき分ける。
そして現れたのは――金属製と思しき、黒い首輪。今までは長い毛に隠れて見えていなかったのだ。
その武骨で冷淡な存在に、眉を顰めるアルト。
「【開錠】 ………あれ?」
間違いなく魔法は発動したはずなのだが、獣人たちの枷を外したときの魔法――【開錠】 では、なぜかこの首輪は外れなかった。
不思議に思ったアルトが改めて【魔力感知】を使ってみると、その首輪からはアースのものとは異なる魔力を感じた。
(これって、もしかして…)
直感的にある答えに行きついたアルトは、“賢者の魔導書”に載っていたある魔法を試すことにした。
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