第169話 アルトの説得
「アース、だったよね。君はこのままでいいの?君を大切にせず、傷つけて、怒鳴ってばかりで…そんなテイマーと本当に一緒に居たいの?」
アルトの言葉に同意するように、心配げな表情でこくこくと頷くレシェンタとホルン。
キースとマズルカは、冷静な眼差しで彼らの様子を見つめている。
「ハッ!魔獣相手に言葉での説得なんざ馬鹿げてるぜ!力で虐げる。強者に従わせる。それが従魔とテイマーのあるべき姿だろうが。」
「違う。僕とテナはそんなんじゃない!それにその子にだって、感情はあるんだよ?」
キッと睨みつけながらそう訴えるアルトに対し、ドウルは笑い声を上げる。
「魔獣に感情だ?んなモンあるわけねぇだろうが!頭おかしいんじゃねえのか?」
そんなことを口走るドウルに、アルトは呆れと憐みの入り混じったような目を向ける。
話が通じない、この人にこれ以上何を言っても無意味だ――そう思ったアルトは、アースへの語りかけを続ける。
「テナ、その子を放してあげて。」
「がうぅ。がう。ぐるるぅ。」
テナはアースの身体を押さえていた前足をそっと退かせつつ、アースを説得するかのように数度唸り声を上げる。
「ありがとうテナ。アース、そんなボロボロになっちゃって…見ていられないよ。僕なら絶対に君をそんな風になんてさせない。必ず君を助けるから…僕を信じて?」
「さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ!おい、テメェも何やってんだ。自由になったんならさっさと俺を助けろ!ついでにそいつもやっちまえ!」
ビクッと身体を揺らし、不安そうな顔でドウルとアルトとを交互に見やるアース。
「僕は君を助けたい。君はどうしたいの?君にとって、あの人がそんなに大事なの?身を挺してまで、守るべきテイマーなの?」
ぎゅっと目をつむり、苦しげに頭をぶんぶんと振るアース。そしてついに―――
「キューン!!!!」
ドウルに背を向け、アルトの方に駆け出すアース。
ようやく決心したその様子に、ふっと表情を緩めるキースたち。
「おい!てめ――」
ドウルが文句を言う間もなく、アースはアルトの腕に飛び込んだ。
その瞬間、アルトの右手の甲とアースの額が輝きながら、アースのテイムの印がテナのそれと同じ――アルトの印へと変化した。
同時にドウルの右手の甲も光ったが、そちらはすぐに輝きを失った。
「「「「「!?」」」」」
あまりに現実離れした光景に、唖然とする一同。
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次話の更新は12月15日の予定です。