第168話 虫唾が走る
「テナ、この子を抑えててくれる?できるだけ優しくね。」
「がう。」
アルトの指示を受け、アースをそっと押さえつける成体の姿のテナ。
その様子を確認したアルトは、ドウルの方へと向き直る。
ドウルは暗がりから現れた一角黒豹に目を剥いていたが、自分の方に来ないと知っていくらか安堵した様子だ。
「おじさん、従魔を一体なんだと思ってるの?」
「あ?何言ってんだてめぇ。」
「この前もそうだったけど…従魔を蹴ったり怒鳴りつけたり…酷すぎるよ。どうしてそんなことをするの。」
アルトの静かな怒りに満ちた魔力が、ビリビリと大気を揺らす。
その様子にレシェンタとホルンは微かに震え、マギアではないキースやマズルカでさえ威圧感を感じ取って冷や汗を流す。
精霊たちは頭上の木の上から彼らの様子を見守りながらも、初めて目にするアルトの本気の怒りに息を呑む。
ドウルはというと…単純に鈍いのか、あるいは氷に包まれた今の状況では何も感じ取れないのか、アルトの必死の訴えを鼻で笑っている。
「その格好…お前らだって冒険者だろうが。それなら、今まで散々魔獣を倒してきたんだろう。自分のことを棚に上げて…魔獣を傷つけるのが罪になるってのか?あ?」
「確かに魔獣は保護対象じゃなく、討伐の対象だ。だが、それと従魔を同列に扱うべきじゃないだろう。」
ドウルの言葉に、キースが冷静に反論する。
「従魔を虐げたり傷つけたり…そんなの間違ってるよ。信頼を築いて、一緒に成長していく大切なパートナーでしょう?」
「ちっ…あのパストーラと同じようなこと言いやがって。虫唾が走るぜ。」
眉間に皺を寄せ、そう吐き捨てるドウル。
「ところで、まだちゃんと答えを聞いていないわよぉ。なぜ、従魔を粗雑に扱うのか。答えてちょうだい?」
「簡単なことだ。ただの躾だよ。そいつがトロくて俺の思い通りに動かねぇから、体に教えてやってんのさ。なんせ、相手は魔獣だからなぁ。」
「っ……」
ギリッと奥歯を噛みしめるアルト。
「正真正銘のクズね。」
「本当に酷い。」
「虫唾が走るって、その言葉そっくりそのまま返すわよ。」
スッと真顔になり、氷のように冷たい声で言い切るマズルカと、それに同意するホルンとレシェンタ。
「っ…獣人風情が舐めた口聞きやがって…」
「何か言ったかしらぁ?」
ボソッとホルンのことを貶すドウルに、青筋を立てた笑顔で聞き返すマズルカ。
バツが悪くなったのか、フイと視線を逸らして無視を決め込むドウル。
アルトたちが積極的に手を出してこないことに安心しきっているのか、それとも生来のふてぶてしさ故か、この状況でも態度が大きいのにはいっそ感服である。
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