第167話 追いかけっこ
「っつー…ぺっぺっ…おい待て!」
口に入った土を吐き出し、目を擦るキースたち。ドウルが逃げた方向に向かって声を荒らげるキース。
「アタシに任せて!先回りする!」
その時、フードを被っていて無事だったホルンが皆の後方から駆け出した。
「頼む!」
「私たちもすぐ追うけど、気をつけるのよぉ!」
「うん!」
いまだ目を擦っているキースと体勢を立て直しつつあるマズルカの言葉に短く答え、そのまま助走に入るホルン。身軽な彼女はヒラリとジャンプし、難なく土壁を跳び越えて行った。
片目を薄く開いたアルトが【炎弾】で土壁を破壊し、慌ててドウルとアース、そしてホルンの後を追う一同。
駆け足で彼女らを追いながらも、キースは思わず感嘆の言葉を漏らした。
「凄ぇな。」
ホルンは木々の枝を利用し、ひょいひょいと森の中を進んでいく。これが森で育った獣人ならではの動きなのだろう。
――そして、あっという間にドウルを追い越し、地上に降り立って彼の前に立ち塞がった。
その拍子に、ホルンが被っていたフードがハラリと落ちる。
ホルンを押し退けようと足を踏み出したドウルだったが、フードの下から現れたホルンの顔を見て、思わず歩みを止める。
「てめぇ…何で獣人がこんなトコに……」
薄暗い中でもギラリと光る鋭い爪と――何より彼女の鋭い眼光に気圧され、ドウルは一、二歩後ずさった。
ほどなくしてキースたちもドウルの頭上に追いつき、前後からドウルを挟む形になった。
彼らが膠着状態を保っている少しの間に、遠回りしていたマズルカとレシェンタが藪の中から出て来て、ホルンの隣に並ぶ。
「ホルンちゃん、よくやったわねぇ。」
「本当、助かったわ。」
「えへへ、ありがと。」
そんな会話を交わしながらも、マズルカとレシェンタは武器や杖を油断なく構え、ドウルから視線を逸らさない。
「っち…てめぇのせいで追いつかれちまったじゃねえか!っとに使えねぇ奴だな!」
そう怒鳴ってアースを蹴ろうと足を上げるドウル。
その瞬間――
「【氷壁】!」
キースの隣に立っていたアルトが、容赦なく魔法を放った。その漆黒の瞳には、怒りと侮蔑の色が浮かんでいる。
片足を上げた、なんとも間抜けな格好のまま顔以外を氷漬けにされたドウルは、何やら煩く吠えているようだ。
「何だよこれは!おい、離せ!冷てぇんだよ!てめぇも何ボサッとしてんだ!さっさと助けやがれ!」
ドウルに怒鳴りつけられてビクッと身体を震わせたアースは、おずおずとドウルの方へと歩を進めようとする。しかしそれを遮るように、アルトが間に割って入った。
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