第166話 森に逃げ込んだ男
「畜生が!なんだってこんなことに…」
男は一人、森の中をよろよろと歩いていた。
「おい、さっさとしやがれ!次はどっちへ行けばいいんだ!?」
……否。正確には一人ではなかった。
「……」
男に急かされ、数歩先を歩く従魔――小さな大地狐は無言で右の獣道へと歩を進める。少しでも鳴き声を出すと、カッカしたテイマーに「うるさい」と怒鳴られるのだ。
魔獣は精霊のような【魔力感知】を使えるわけではない。しかし、音や匂い、空気の流れなどで生物の気配を感じ取ることはできる。そしてその感覚は、一般的な人間のそれよりも鋭敏なのだ。
だからこそ、従魔のテイマーであるこの男――ドウルはその従魔を羅針盤代わりに、逃げ込んだこの森の中を無事に彷徨っていられるのだ。
「ったく、まさか奴隷商が捕まるなんてな…ドジ踏みやがって。おかげで俺まで逃げ隠れする羽目に…」
彼は数日間の逃亡生活で憔悴していながらも、ブツブツと悪態をつく元気はあるようだった。
◇
薄暗くなってきた森の中で、ドウルの休憩に合わせて消耗した身体を休ませていると、“何か”の接近を感じ取る大地狐のアース。
アースはテイマーを守るため――ではなく魔獣としての本能で、サッと立ち上がり近づいてくる脅威に身構えた。
その様子に気づいたドウルが、慌てて起き上がり逃げようとしたその時――
ガサガサと揺れた草むらの向こうから現れたのは―――アルトたちだった。
「あ。」
「お前…」
「あらまぁ。」
「誰?知り合いなの?」
「……」
それぞれに反応を見せるアルトたち。ホルンは無言でさっとフードを被り、念のためキースたちの後ろに隠れる。
最後尾にいるエメラとコハク、テナも思わず咄嗟に身を隠す。
「ちっ…てめぇらか。」
「よぉ、随分疲れてるみたいだな。よければ俺たちが町まで送ってやるぜ?」
何でもない風を装ってドウルに話しかけるキース。
「ああ、そりゃ助かる……ぜっ!」
バサッ!
「っ!!!!」
掴んだ土をキースたちの方へと投げつけるドウル。
「おい!連中を足止めしてとっととついてこい!」
アースに向かって怒鳴り、どこにそんな力が残っていたのか一目散に駆けていくドウル。
「……!」
土魔法で地面の土を操ったアースは、手早く壁を作ってドウルの後を追う。
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