第165話 条件
アルトたちが話し合っている間も獣人たちはホルンの説得を試みたが、ホルンは頑として受け入れなかった。
話し合いの結果、ホルンの同行を認めることにしたアルトたち。
ホルンは跳び上がって喜んだが、それを制してキースは話を続ける。
一緒に旅をするにあたって、アルトたちはホルンにいくつかの条件を出すことにした。
・他の人間から嫌なことを言われても、決して自分からは手を出さずに我慢すること。
・獣人であることを隠すために変装することがあっても、拒まないこと。
・冒険者チームの一員になる以上、日常でも戦闘でも自分勝手な行動をしないこと。
・エメラとコハクを“仲間”として扱い、敬いすぎないこと。
最後の条件はエメラたちの提案である。これからずっと一緒に旅をするのに、今の調子で敬われていては息が詰まるから、という強い要望だった。
まだ子供であるホルンにとっては割と厳しい条件である。しかし最低限これくらいは守れなくては、ホルン自身を、そしてアルトたちをも危険に晒してしまうだろう。
再三に渡る獣人たちの説得からもそれを理解していたホルンは、これらの条件を全て呑んでアルトたちと共に行くことを選んだ。
それからホルンとの別れを十分に惜しみつつ、「恩人たちに迷惑をかけないように」と口酸っぱく言い含める獣人たち。彼らは最後にアルトたちに深々と頭を下げ、そして新しい隠れ里へと旅立っていった。
彼らの後ろ姿を見送るホルンの目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。
ほどなくして目元をゴシゴシと雑に擦った彼女は、吹っ切れたような晴れやかな表情をしていた。
最後に皆でホルンの両親の墓前に手を合わせ、アルトたちは霧に包まれたこの地を後にした。
去り際、チラリとホルンの父親――クラベスの墓を見やるマズルカ。
(…たとえ多対一だったとしても、マギアでもないただの人間が大人の――それも熊の獣人をそう簡単に殺せるものかしら?)
彼の疑問は、真っ白な霧の中へと消えていった。
◇
来るときよりも更にスピーディーに帰り道を進む一行。ホルンも嬉々として魔獣と戦っている。
そんな彼女の様子を見て、感嘆の言葉を漏らすレシェンタとキース。
「獣人は強いって本当なのね。」
「子供も一緒に狩りをすると話には聞いていたが…想像以上だな。」
倒した魔獣の処理を終え、一息つきながらアルトもホルンに話しかける。
「ホルンって強いんだね。びっくりしちゃったよ。」
「えへへ、ありがとう。お父さんは里一番の戦士で、もっとずっと強かったんだよ!私ももっと強くならなきゃ!」
「それなら、いずれは武器も使えるようになった方がいいわねぇ。」
スッと会話に混ざってきたマズルカに、不思議そうな顔を向けるホルン。
「武器?」
「そうよぉ。いくら獣人が普通の人間よりも強といっても、拳と蹴りと爪だけでの戦闘には限界があるもの。私でよければ手取り足取り、教えてあげるわよぉ?」
そう言って手をわきわきとさせるマズルカ。言っていることはまともなのだが、モフ欲が抑えきれない手つきのせいで台無しである。
「い、今は遠慮しとくよ。」
少しだけ後ずさりながらそう答えるホルンに、マズルカは小さく肩をすくめた。
「あら、そーぉ?残念だわぁ。」
読んで下さってありがとうございます。
誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
ブックマークや評価、いいね等で応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!