第164話 父親そっくり
「ちょっとホルン、本気なの?」
「え、どういうこと?」
「ホルンも一緒に新しい里に行こうよ!」
次々に疑問や説得の言葉を口にする獣人たち。
そんな彼らの言葉を遮るようにぶんぶんと首を振り、再び口を開くホルン。
「アルトたちには、大きな大きな恩があるの。このまま恩返しもせずに別れるなんてできないよ。」
「恩?」
「あの時アタシが油断して人間に捕まったせいで、皆も捕まって売られちゃうところだった。それだけじゃない、お父さんまで…っ!」
彼女の言葉に、暗い顔をして俯く獣人たち。
「でも、あんたたちのおかげで皆は無事にこうして戻って来られたの。新しい里は、アルトと精霊様たちのおかげできっと前よりも安全なはず。」
そう言って、オオボエの手元に視線を向けるホルン。オオボエはそれを肯定するように、ゆっくりと頷く。
「だからあんたたちについて行って、ちゃんとこの恩を返したい。お願い、私きっと役に立ってみせるから!」
ホルンの必死の懇願に、困ったように顔を見合わせるアルトたち。
「ホルン、無茶を言うんじゃない。お前みたいな子供が彼らについていって、何になる?足手まといになるだけだろう。」
そう言って諫めようとするオオボエに、キッと視線を向けるホルン。
「でも…っ!きっとお父さんも、何か恩返しをしたいって言うと思う。恩人に何も返せないなんて…アタシだってそんなの嫌なの。お願いよ!」
「俺たちは、お前の父親を殺した奴らと同じ……人間だぞ。」
重々しいキースの言葉に、ふるふると首を振るホルン。
「全然同じなんかじゃない。あんたたちはアタシたちを助けてくれた。“人間”って一括りにしちゃいけないって、今回のことでわかったんだ。」
「……私たちはともかく、この国の人間には獣人を快く思っていない人もいるわぁ。彼らと一緒に行くと、嫌なことを言われることもあると思う。それでも気持ちは変わらないの?」
厳しく、それでいて優しく諭すようなマズルカの言葉に、ホルンは大きく頷きを返す。
「うん。何があっても、絶対について行く。」
「途中で旅が嫌になっても、引き返せないのよ。隠れ里の皆とも、きっともう二度と会えないのよ?」
「ぅ…」
レシェンタの言葉に、少しだけ目を泳がせるホルン。
「っ……それでも行く!このまま何も返せずにあんたたちと別れたら、きっとそっちの方が後悔するから。」
「全く…頑固さも父親そっくりだな。」
呆れたように頭を掻くドラム。
「このままだと、この子は勝手にでもついて行ってしまいかねませんね。」
同じく呆れたようなベルの言葉に「その通りだ」とでも言いたげに、ニンマリと笑みを返すホルン。その様子に溜息をつくキース。
「…少し考えさせてくれ。」
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