第163話 ホルンの決断
「本当にありがとうございます。エメラ様、コハク様…そして小さき賢者、アルト殿。」
先程のアルト達の会話から、アルトが“賢者の魔導書”を所有する賢者であることを察したらしいオオボエ。
感動でいっぱいに見えた様子だったが、しっかりとその耳にはアルト達の話す声も届いていたようだ。
「どういたしまして。でもこれを使っても、絶対に誰にも見つからない保証はないので…ちょっとしたおまじないみたいなものだと思ってください。」
(ちょっとしたおまじない…ねぇ。)
どこか釈然としない様子のレシェンタだが、アルトの無自覚と謙遜は今に始まったことではないので黙っている。実際、見つからない保証はない、というのも事実なのだ。
「はは、承知しました。この見事な精霊様の姿だけでも、皆は十分に喜びましょう。」
そう言って、オオボエは恭しくレリーフの精霊像を撫でた。
そうこうしているうちに、眠っていたホルンが目を覚ました。彼女を連れて、他の獣人たちに合流しに外に出るオオボエ。
アルト達もそれに続いて外に出ると、木に背を預けて待っていたマズルカが、そっと最後尾のキースに話しかけた。
「話は終わったのぉ?」
「ああ。悪かったな。」
彼の気配に気づいていたキースはさほど驚く様子もなく、小さく謝罪の言葉を口にする。
その謝罪の意味――マズルカを除け者にして内密の話をしていたこと――を察したマズルカは、なんでもないという風に肩をすくめる。
「秘密の一つや二つ、誰にでもあるものよぉ。私が知る必要はないんでしょ?精霊たちも絡んでるのなら、悪企みじゃないのは明白だし…気にしなくていいわぁ。」
「随分と物分かりがいいんだな。」
「こう見えても、色々と人生経験は豊富なのよぉ。酸いも甘いも嚙み分けたってやつ?」
ぱちりとウインクをするマズルカに、片方の口角を上げて返事をするキース。
「へぇ…そりゃ頼もしい限りだ。」
◇
獣人たちはこぞって、オオボエの手の中のものを覗き込んでいる。“精霊と賢者からの贈り物”に、皆が興味津々の様子だ。
「こらこら、もういいだろう。新しい里に戻ってゆっくり見ればいい。」
オオボエに諫められ、渋々ながらも引き下がる子供たち。
そんな中、ホルンがアルトたちの方に近づく。
「私、決めた。アルトたちについて行く。」
「「「「ええっ!?」」」」
ホルンの衝撃発言に、アルトたちも獣人たちも、驚いて声を上げた。
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