第159話 無責任な真似はできない
「それで、他の皆も無事なんだな?」
先程までの空気はどこへやら、真剣な表情で尋ねるドラム。
「ああ。今も少し離れた所で俺たちの仲間と一緒に待ってるよ。里がこんな状況だったから、ひとまず俺たちだけで様子を探りに来たんだ。」
キースの言葉を受けて、ドラムがベルやマズルカ、エメラに視線を向ける。それに対し、肯定するように頷きを返す三人。
霧に囲まれた周囲をぐるりと見渡したドラムは、近くの破壊された家に目を留めて小さくため息を吐いた。
「なるほど、無理もないな。」
「私たちはこれから皆の所へ戻るけど、あなたも一緒にどぉ?もしよければ、そのまま新しい里まで私たちを案内してくれると嬉しいんだけど…」
「それは……」
マズルカの言葉に、眉間に皺を寄せて言葉を濁すドラム。
(ま、そりゃ躊躇するわな。)
そんな彼の様子に、警戒するのも無理はないと頭を掻きながら思案するキース。
ほどなくして、ある一つの案が浮かんだ。
「じゃあこうするのはどうだ?新しい里からここへ、あんたたちの仲間を寄越してほしい。」
キースの提案に、キョトンとした表情を見せるドラム。
「俺たちは、ここで大人の獣人たちの迎えを待ってる。んで、保護している皆はそれぞれの家族と一緒に新しい里へ向かい、俺たち人間は行かない。どうだ?」
「そんな面倒なことをしなくとも、俺が保護された皆を新しい里まで案内すれば、それで解決だろう。」
不思議そうに首を傾げるドラムに、マズルカが異を唱えた。
「馬鹿言わないで。こっちは彼女たちの護衛任務で来てるのよぉ。途中放棄なんて無責任な真似はできないわ。」
話し方や声色こそいつも通りだが、どこか反論を許さないような圧を込めたマズルカの声。
「新しい里までどれくらい離れてるか知らないけど、辿り着くまでにあの子たちが何者にも襲われない保証がどこにあるって言うのよぉ。最低限、ちゃんと全員が家族のもとに帰るところまでは見届けさせてもらうわ。」
一見笑顔に見える表情だが、その目は真剣そのものだ。
「マズルカの言う通りよ。お願いドラム、キースの言うようにしてちょうだい。」
「精霊様が…そうおっしゃるのなら。」
畳みかけるようなエメラの言葉に、渋々ながらドラムも折れた。
「お前の言うように俺が一旦新しい里に戻り、攫われた者たちの家族をここへ連れて来るとしよう。」
十中八九エメラのおかげだったが、どうにか納得してもらえてホッとするキースたち。
「だがその前に、攫われた者たち全員が揃っているかを確認させてほしい。子供たちとベル以外の女性が待っている場所まで、案内してくれるか。」
「もちろんだ。」
◇
その後、戻ってきたキースたちと一緒にいるドラムの姿を見て歓声を上げた獣人の子供たち。
隠れ里が半壊していた事情と父親や兄たちが無事であることを知って、子供たちも女性たちも、そしてアルトもレシェンタもひと安心した。
ひとりひとりの顔を見て、全員が怪我もなく(実はアルトとレシェンタが治したのだが)揃っていることにドラムも安堵の息を漏らした。
攫われた皆が無事に戻ってきたことの証人として、ベルもドラムに同行することになった。
二人が戻ってくるまでの間、アルトたちはここで獣人たちの迎えを待つことにした。
比較的損傷の少ない建物に数人ずつ分かれて寝泊まりしつつ、日中は手分けして狩りをしたり料理をしたりした。
久々の故郷――もう二度と帰って来られないと思っていた場所で過ごす日々は、獣人の皆には涙が浮かぶほどに嬉しい時間だった。
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