第158話 警戒するのも無理はない
「さっきは悪かったな。そうとは知らずに、恩人たちを傷つけるところだった。」
エメラとベルから説明を受け、キースたちに深々と頭を下げるドラム。
精霊のエメラと、攫われたはずが無事な姿で帰ってきたベル。両者の説得により、彼はキースたちのことを信用したようだった。
「わかってくれればいいのよぉ。彼女のおかげで、怪我はせずにすんだしね。」
「仲間…それも女子供ばかりが攫われたんだ。俺たち人間を警戒するのも無理はないさ。」
そう言ってウインクするマズルカと肩をすくめるキースに、ほっとした顔をするドラム。
「そう言ってもらえると助かる。」
「それで、この里の惨状は一体どうしたんだ?何があった?」
「ああ。実は――」
ドラムの話はこうだった。
ベルたちが攫われた後、残された獣人の男性たちの意見は三つに割れた。
命に代えても攫われた者たちを取り戻すと息巻く者。
場所が知られてしまったこの里に留まることは危険だと、移動を提案する者。
攫われた者たちが自力で逃げ出すことに一縷の望みをかけ、この場に留まることを主張する者。
攫われた者たちを案じる気持ちは、皆同じだった。しかし人質を取るような人間が相手である以上、慎重な意見が出るのも無理からぬことだった。
議論は白熱したが、ある出来事を機に皆の意見がまとまった。
その結果、彼らはこの里を棄てて新たな土地に移住することを選んだのだ。
そして、もしも例の人間――奴隷商の仲間――たちがこの里を訪れた時のために、彼らは一計を案じた。
魔獣に襲われて里が滅んだと思わせるために、自分たちで建物を壊して回ったのだ。
「なるほど。それでこの有様ってわけねぇ。」
「どうりで里が半壊している割には、血痕の類が見当たらないと思ったぜ。」
ドラムの話を聞いて、納得したように頷くマズルカとキース。
「ああ、そこまでは頭が回らなかったな。次は気をつけよう。」
「むしろ“次”なんて無いことを祈りたいけれど。」
「それもそうだな。」
そんな軽口を言い合うベルとドラム。
「今の話だと、あなたや他の獣人たちはもう新しい里に住んでるのよね。それじゃあ、どうしてあなたはここへ来たの?何か忘れ物?」
エメラの言葉に、ドラムはボッと顔を赤くして俯く。
「よかったわねぇ。大切な“忘れ物”が見つかって。ベルはあなたの奥さん?それとも恋人?」
「恋人だ………今はまだ。」
ドラムが小さく小さく零した最後の一言は、ウサギの耳を持つベルにだけは届いたようだった。
気恥ずかしくなったのか、プイッと顔を逸らすベル。
しかしその顔は桃色に染まっており、耳がぴこぴこと動いていた。
「ふふ、愛されてるのねぇ。」
ドラムの言葉が聞こえたわけではなかったのだが、二人の様子から何かを察したマズルカ。
彼の言葉に、更に顔を赤くするベルとドラムだった。
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