第154話 新たな情報
「コーダちゃん、それ本当なの?」
「うん。残念ながら本当だよ。」
出発の直前、フォルテとギルマスから新たな情報がもたらされた。
例の奴隷商が売買していた魔獣たち。
その入手に、数人の冒険者が関わっていたというのだ。
彼らは多額の金銭と引き換えに、Fランクの魔獣たちを捕まえては奴隷商に引き渡していたらしい。
そのため急に羽振りが良くなり、密かにギルドの要監視対象になっていたのだとか。
そして――問題の冒険者のうちひとりが、テイマーのドウルだった。
奴隷商と取引していた他の冒険者は全員捕らえて尋問中だが、ドウルだけ行方がわかっていないらしい。
「その人の従魔は…どうなったんですか?」
心配そうに尋ねるアルト。
「念のため確認したところ、彼の従魔として登録されているのは一体。アースという名の大地狐だけど…同じく、行方不明だよ。」
「従魔なら、テイマーであるドウルと行動を共にしていると考えた方がいいだろうな。」
フォルテの言葉に、同意するように頷くギルマス。
(((アースって…そのまんまな名前だな。)ね。)ねぇ。)
妙なところが引っかかったキースとレシェンタとマズルカだったが、深刻そうな表情を見せるアルトに気を使って、三人とも口を噤んでいる。
「そうですか…早く、見つかるといいですね。」
犯罪者となった冒険者は、当然ながらその資格を剝奪される。その後は罪の大きさに応じて、幽閉や労働など、相応の罰が課せられるのだ。
ではテイマーが犯罪者となった場合、その従魔はどうなるのか…?
質問が喉まで出かかったが、答えを知るのが怖くなって聞くのをやめたアルトだった。
「奴の行方は、警備隊が鋭意捜索中だ。」
「うん。だから近々捕まえられるだろうけど…君たちも念のため、心に留めておいてね。それじゃ、獣人たちを頼むよ。」
「わかりました。」
◇
ギルマスとフォルテに手を振りながら、ペザンテの町を後にするアルト達。
大所帯でぞろぞろと歩くと目立つため、行けるところまでは二台の馬車で行くことになっている。
人の気配が強い街道沿いにまで魔獣が出てくることは、ほとんどない。アルト達も、魔獣と出くわすことなく森の手前まで辿り着くことができた。
「さて、馬車で送れるのはここまでですね。」
「皆さん、順番に降りてください。」
馬車を操っていた警備隊員が、それぞれ馬車の中の獣人たちに声をかける。
フォルテの人選だけあって、送ってくれたのが獣人差別などしない人たちだったことに安心するアルト達だった。
深々と頭を下げる警備隊員たちに手を振り、森に入っていく一同。
彼らの姿が見えなくなった頃合いを見計らって、テナを大人の姿に戻させるアルト。
事前にそのことを聞いていた獣人たちは叫びこそしなかったものの、実際に目にするとやはり驚いていた。
大勢で森の中を行くことで、大量の足跡が残ってしまう問題に気づいた一行。
隠れ里の場所が他の人間に知られるのはまずいため、対策を講じることになった。
皆が踏んだ草やかき分けた枝を、最後尾のアルトが【治癒】で治しながら進むことにしたのだ。
【治癒】といえば人の傷を治すものだという先入観を持っていた大人たちは、アルトのその発想に驚いた。
しかし、そのおかげで草木をかき分けた痕跡はすっかりなくなり、とても二十人余りもの人が通ったとは思えない状態になった。
「そんなに魔法を連発してて大丈夫なのぉ?」
「たぶん平気だよ!レシェンタさんに教わったおかげで【治癒】はかなり上達したし、もし僕の魔力が尽きちゃったら…あー、レシェンタさんに代わってもらうから!」
うっかり魔法石のことを口走りそうになったが、なんとかごまかすアルト。
マズルカのことを信用していないわけではないのだが、これはこれ。魔法石のことは簡単には他人に話さないよう、キースとレシェンタから釘を刺されているのだ。
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