第152話 そっちが本題
「そもそも、何のために生きた魔獣なんて捕まえるんだ?生け捕りの依頼なんて冒険者ギルドでも滅多に見ないぞ。」
「貴族に売るんだとさ。」
キースの疑問に、不快感を隠そうともせずに答えるフォルテ。
「貴族に?」
「ああ。今回捕まえた連中の頭…奴隷商とでも呼ぼうか。奴の話では、あー…ごほん。」
話の途中で言いづらそうに言葉を切り、チラッとアルトに視線を向けるフォルテ。
「物好きな貴族連中が欲しがるんだってさ。詳細は…想像に任せるよ。」
言い淀んだフォルテに代わり、ギルマスがサラリと流す。アルトは不思議そうにしていたが、ギルマスの黒い笑みから、キースとレシェンタは何となくその内容を察した。
「それにしても、魔獣の闇取引に獣人の奴隷だなんて…よくもまぁ嫌な商売ばかりしたものね。」
ため息交じりのレシェンタの言葉に、小さく頷くギルマス。
「それは僕も少し引っかかっていたんだ。今回捕まえたのは十数人程度の組織だったようだけれど…そんな人数でできるものか、とね。誘拐の実行犯はもう捕まったのかな?」
「おっと悪い、今日はそっちが本題だったな。」
ギルマスの問いかけに、ぽりぽりと頭を掻くフォルテ。
「獣人の誘拐は今回捕らえた連中の仕業で、これが初めてらしい。押収した書類の中には獣人の売買に関するものはなかったから、“初めて”ってのは恐らく本当だろう。」
「誘拐犯が捕まったってことは、獣人の人たちはもう里に帰っても大丈夫なんですか!?」
パアッと表情を明るくして、ちょっと食い気味に質問するアルト。
「ま、そうなる…かな。だが、魔獣の調達は別ルートらしくてな…そこはまだ尋問と調査の最中なんだ。ギルマスにも、目星を当たってもらっている。つまり、関係者が全員捕まったわけじゃない。」
「そんな…」
シュンと眉を下げ、わかりやすく落ち込むアルト。そんな彼の様子に、クスクスと笑うギルマス。
「とはいえ、彼らをいつまでも軟禁状態にしておくわけにはいかない。かといって、無防備に帰すのも危険だ。だから……君たちが護衛として彼らを里まで送っていく、というのはどうだろう?」
「「「はい?」」」
ギルマスからの突然の提案に、呆気に取られるアルト達。
「本来、被害者の護衛は警備隊の仕事なんだが…相手は獣人だ。恥ずかしながらうちの隊員の中にも、彼らを忌避する者は少なからずいる。」
苦々しげにそう口にするのは、ぐぐっと拳を握りしめたフォルテだった。
その口ぶりや態度から察するに、彼自身は獣人たちに偏見や差別意識はないのだろう。そして、周囲の人間の意識を変えることのできない自身の力不足に、憤りを感じているようだ。
「それに、当の獣人たちも人間を酷く警戒していると聞いた。君たちならば彼らの信頼を得ているようだし、ギルマスから聞いたところ、腕も確かなようだ。」
フォルテの言葉に、出会ったときの獣人たちの様子を思い浮かべて表情を曇らせるアルトたち。確かに、初対面の人間が彼らの護衛をするというのは、現実的ではないだろう。
「もちろん“獣人たちが承諾すれば”という条件はつくけれど…警備隊から冒険者ギルドを通しての指名依頼になる。報酬は応相談…どうだい?引き受けてくれるかな?」
アルトはすぐにでも引き受けると言いたかったが、ぐっとこらえてキースの方を見やる。そのキースは微かに表情を歪ませ、ばりばりと頭を掻いている。
「ギルマス、あんたも意地が悪いな。そんな言い方されたら誰も断れないでしょうが。」
「断るつもりなど毛頭ないでしょう。」
あっけらかんと言ってのけるギルマスに、小さく吹き出すキース。
「ふっ…あんたにはお見通しか。俺はそんなお人好しじゃないんだが、うちの凄腕魔法使いはかなりのお人好しなんだ。」
「そんなに褒めても何も出ないわよ?」
「お前のことじゃねえよ。わかって言ってるだろう。」
ふふんとポーズをとるレシェンタを一瞥し、バッサリと否定するキース。
「よかったわねアルト。キースも賛成ですって。この依頼、引き受けましょう。」
「本当?よかったぁ!」
何が何だかわからず、キースとレシェンタの顔を交互に見ていたアルトは、レシェンタの言葉に飛び上がって喜んだ。
「おおい、無視かよ!」
憤慨して声を上げるキースの肩を、ポンと叩くフォルテ。
「話はまとまったようだな。それではまず、獣人の皆さんを説得してもらおうか。その後で大まかな所要日数を割り出し、報酬額を決めるとしよう。」
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