第151話 警備隊の隊長
それから、アルト達はマズルカの宿に滞在することになった。
あの獣人たちを放ってはおけないということで、彼らを見守り、世話をするために宿を移ることにしたのだ。
ギルマスとマズルカは特に反対しなかった。むしろ二人とも、そうしてもらえると助かると安堵の息を漏らしていたくらいだ。
獣人たちは「早く里に帰りたい」としきりに口にしていたが、ギルマスが「この件の犯人が捕まるまでは無理だ」と言い聞かせた。焦って里に帰っても、犯人が野放しではまた捕まるのが目に見えている、と。
獣人たちも「また捕まるのは嫌だ」と、渋々ながら納得した様子だった。
精霊たちの存在とおいしい料理のおかげか、獣人の子供たちはすっかりアルトに懐いた。子猫の姿のテナも大人気だ。
女性の獣人たちも、警戒を完全には解いていないものの、傷を癒したアルトとレシェンタには心を開きつつある様子だ。
キースは“人間の男”ということでまだまだ警戒されているが、それでも初めの時ほど拒絶されはしなくなった。
マズルカはその独特な人柄故か、いつの間にか獣人たちの懐に入ってしまっている。
獣人たちの様子を見ながらも、日に一度、アルトはテナを連れてパストーラのもとを訪ねた。
約束通りテイマーとしての心構えや従魔との関わり方、戦闘時の連携の仕方などを教わるためだ。
アルトは謙遜していたが、それでもテナとの間にしっかりと築かれた信頼関係には舌を巻くパストーラだった。
◇
そして三日後―――
警備隊の本部に呼ばれたアルト達。通された部屋にはギルマスと、この町の警備隊の隊長であるフォルテという男が待っていた。
一通り挨拶を終えると、フォルテは咳払いをして話を始めた。
曰く、この件の功労者・協力者として、アルト達にはこの件の全容を知らせておきたいのだとか。
ついでに――というかこちらが本題だろうか、獣人たちへの事情説明も頼まれてしまった。彼らの信頼を得ているのが主にアルトとレシェンタなので、警備隊としてもやむを得ない選択だったのだろう。
ギルマスとフォルテ、二人に深々と頭を下げられたことに慌てつつも、アルトもレシェンタも快諾した。
キースが捕まえた御者の男の供述をもとに、警備隊は捜査を進めていった。
ギルマスの見立て通り、やはり獣人たちは奴隷として売られるところだったらしい。
獣人は力が強く、労働力としての質が高いのだそうだ。
この国でも、以前には労働力のひとつとして奴隷制度が合法だったこともある。しかし、その制度は数十年も前に撤廃された。今では奴隷の利用も売買も、許可されてはいない。
そして昨日、馬車の行き先であった建物に警備隊が突入した。
偶然か必然か、そこは数日前から警備隊が秘密裏に調査していた場所だった。
以前から怪しげな男が出入りしているだとか、不審な物音がするだとかいった報告が上がっていたらしい。
建物の中には、檻に入れられた魔獣が多数いたそうだ。
奴隷の売買も違法だが、生きた魔獣の売買も違法である。また、テイムされていない魔獣を町に持ち込むことも、通常は許されていない。
その理由は簡単。単純に危険だからだ。
稀に、研究や調査のために捕縛した魔獣を生きたまま運び込むこともある。その場合はギルドの許可が必須で、魔獣が暴れないように麻酔などで眠らせ、更に鎖や檻などで拘束することが定められている。
当時はまだテイムされていなかったテナをレカンタの街に連れて入った際、キースに対してギルマスが一時激高したのも頷ける。
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