第150話 取って食べたりしないわよ
馬車の荷台にかかっていた布を捲ると、マズルカは歓声を上げた。
「あらぁ~っ!カワイイ子たちねぇ!」
その声に驚き、ビクゥッと肩を跳ねさせ毛を逆立てる獣人たち。
「そんなに怯えなくても、取って食べたりしないわよ。それにしても、どのコも随分と汚れちゃってるわねぇ…まずはお風呂にしましょうか。ウチ自慢の大浴場へ案内するわ、ほら早くいらっしゃい。」
立て板に水の如くまくし立てたマズルカは、獣人たちを急かして宿へと押し込んだ。
警戒心の強かった獣人たちも精霊たちの登場で気が緩んでいたのか、はたまた彼の勢いに圧されたのか、大人しく彼に従っていく。
((嵐が去った…))
呆気に取られていたキース達が一息つく間もなく、ほどなくして数人の男性が宿の前にやってきた。
一瞬身構えたキース達をギルマスがやんわりと手で制し、一歩前に進み出る。
「やあ、早かったね。ご苦労様。」
「いえ。ご連絡ありがとうございます。」
彼らの様子からすると、どうやらギルマスの指示で呼ばれ人たちらしい。
「御者の席に縛り付けてある男を連行しておいて。まだ気を失っているから、起きたら色々と話を聞こう。それから…」
てきぱきと彼らに指示を出していくギルマス。それに対して、男性たちは互いに目配せをしたり頷き合ったりしつつ、小声で相談している。
「それじゃあ、男のことは頼んだよ。僕も後でそちらに向かうから。」
四人の男性がこの場に残り、他の男性が御者の男を連れて行った。
そこでようやく、戸惑っているキース達に気づいたギルマス。
「おっと、紹介が遅れたね。彼らは警備隊の隊員だよ。こちらはBランク冒険者のキースとアルト、それから旅の同行者のレシェンタ。この件の解決に力を貸すと言ってくれてね。腕は僕が保証するよ。」
「それは心強い。よろしくお願いします。」
嬉しそうに言った体格の良い男性が、キースに握手を求める。
「どうも。」
「キース、一緒に事情の説明を頼めるかな。アルト君たちは、中でマズルカさんを手伝ってくれるかい?」
アルトたちもギルマスの指示に従い、各々にできることをしていく。
宿の中は目が回るような忙しさだった。
人間の使う風呂に馴染みのない獣人たちの介助をし、清潔な服に着替えさせ、ご飯を食べさせた。
はじめのうちは恐る恐る食事を口に運んでいた獣人の子供たちだったが、食べ進めていくうちに四杯も五杯もおかわりをした。
食事の合間に話を聞くと、彼らは掴まってから何日も食事を与えられておらず、非常に空腹だったのだという。
そんな調子で食事が足りなくなったので、急遽アルトも料理を手伝うことになった。
そこでアルトが作ったスープが獣人たちの口に合ったらしく、アルトは思いがけず彼らの胃袋を掴んでしまったのであった。
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