第149話 マズルカ
「あぁらコーダちゃん!久しぶりねぇ。」
「こんにちはマズルカさん。」
案内された先は、至って普通の宿のようだった。
「内密に頼みたいことががあるんだけど、いいかな?あなたにしか頼めないんだ。」
「あら、ヒミツの多いオトコって素敵。一体どんなお願いなのかしら~?」
◇
それからギルマスは、マズルカとアルト達のことをそれぞれ紹介しつつ、事のあらましを彼に伝えた。
マズルカという人物は、ギルマスよりも少し背が高く細身で、透けるような蜂蜜色の髪を緩く結んだ――男性。
話し方は独特だが、その整った顔立ちと屈託のない笑顔には、見る者の気持ちを和ませる不思議な魅力があった。
マズルカは獣人に対する差別意識や偏見などなく…むしろ、ふわふわモフモフとしたもの(もちろん生き物も含む)が好きらしい。
それならばとアルトが紹介したテナのことも一目で気に入ったようで、彼は小さな黒猫を膝に乗せてずっと撫でている。
話の流れでエメラとコハクのことも紹介することになったのだが、二人のことも「可愛らしい」と褒めちぎっていた。
◇
「なーるほどねぇ。それで、しばらくの間ウチで獣人ちゃんたちを匿ってほしいってワケね。」
「そういうこと。お願いできるかな?」
「モチロンよぉ!今なら上の階が空いてるから、ワンフロア貸し切りにするわね。他のお客はちょうど出払ってるから、今のうちに案内するわ。」
善は急げとばかりに、宿の扉を開け放って外へと飛び出すマズルカ。慌てて彼の膝から飛び降りたテナは、アルトの肩へと非難した。
「あら?馬車はどこに…?」
獣人たちが乗っているはずの馬車が見当たらず、キョロキョロと周囲を見回すマズルカ。
「あ、一応隠してたんです。今解除しますね。」
アルトは慌てて馬車の周囲に掛けていた【安全地帯】を解除した。
「へぇ…。」
突然現れた馬車に目を瞬かせたマズルカだったが、さほど大きなリアクションもなく普通に馬車に歩み寄って行った。
アルトの魔法の不可思議さについてはギルマスから事前に聞いていたためか、ある程度心構えができていたようだ。
(軽薄そうに見えるが、その実妙に落ち着いていて物怖じしない。それに隙のない立ち居振る舞い…あのギルマスと懇意にしているだけあって、マズルカって男も只者じゃなさそうだな。)
顎に手を当てながら、キースはそんなことを考えていた。
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