第148話 かえって目立つぞ
それからレシェンタとアルトは馬車の荷台に乗り込み、手分けして獣人たちに治癒を施していく。
あっという間に怪我が治っていく様子に、獣人の子供たちからはわっと歓声が上がった。
その様子を横目に、獣人たちに聞き取りを行うギルマス。
獣人たちの話をまとめるとこうだった。
獣人たちはここからさほど遠くないところにある、いわゆる隠れ里に住んでいた。
そこに突然人間の男たちがやって来て、女子供だけを攫った。
里の男たちは戦おうとしたが、獣人の子供がひとり人質に取られていたので手が出せなかった。
そして攫われた者たちは首と手足に枷をつけられ、馬車に乗せられてここまで連れて来られた。
話の途中で「私のせいだ」と泣き出した少女がいた。熊耳の少女だ。
恐らくこの子が最初の人質になった子だったのだろう。
周囲の獣人たちやアルトが「君のせいじゃない」と懸命に慰めたことで、どうにか落ち着きを取り戻したようだった。
「なるほどね。事情は大体わかったよ。ちなみに、その時攫われた人たちは今ここに全員いるかな?誰かが別の馬車で運ばれた様子はなかったかい?」
ギルマスの問いに、ふるふると首を振る獣人たち。
「ふむ……この件は一旦僕が預かろう。君たちには――」
「乗りかかった船だ、ここで降りるつもりはないぜ。」
キースの言葉に、うんうんと頷くアルト達。
一瞬目を丸くしたギルマスだったが、ふっと表情を緩めていつもの笑みを浮かべる。
「そうしてもらえると助かるよ。現状、彼らの信頼を得ているのは“精霊の仲間”と見なされている僕らだけだろうからね。特に、アルト君には色々と力を借りることになると思う。」
「わかりました。お役に立てるようにがんばります!」
そう言って意気込む幼い冒険者を眩しそうに見つめながら、ぽんぽんとその肩を撫でるギルマス。
「期待しているよ。とりあえず、治療が終わったら場所を移動しようか。」
「ちょうど今、最後の一人が終わったところよ。」
そう言って立ち上がり、アルトと一緒に馬車を降りるレシェンタ。
「おや、さすがだね。それじゃあ…ん-、どうやって移動しようか。馬車はこの有様だし、降りて歩くにもこの人数じゃ目立ちすぎる。」
「僕が運びますよ。」
「え?」
アルトからの思いもよらない提案に、ぎょっとして目を見開くギルマス。
「期待するとは言ったけれど、いくらなんでも…」
「これくらいなら大丈夫ですよ?皆さん、何かに掴まっててください。それか、隣の人と手を繋いで…いいですか?いきますよ…【浮遊】」
アルトが唱えると、馬車全体が宙に浮かぶ。
獣人たちは皆怯えと驚きの混じった表情を見せており、小さく悲鳴を上げる者もいる。
「おいアルト、これじゃかえって目立つぞ。」
「あ、そっか。それじゃあ…」
キースに指摘され、慌てて馬車の浮く高さを調節するアルト。数秒後には、馬車の車輪が地面から数センチのところを浮いている状態で止まった。
「これで馬に引いてもらえば、そんなに目立たないよね。」
「あ、ああ。そう……だな。」
煮え切らない返事をするキースだったが、他に代案もないので多少の違和感はスルーすることにした。
「本当に見たこともない魔法ばかりだね。“賢者の魔導書”の魔法がこれほどとは…」
【浮遊】の魔法は魔導書とは無関係の、アルトのオリジナルの魔法である。だが、勘違いしてくれるならそれでいいかと、敢えて指摘はしないことにしたキースとレシェンタだった。
「ところで、これからどこへ向かうんだ?ギルドか?」
「この件が解決するまで彼らを匿わなきゃいけないからね…僕の知人の所へ案内しよう。アルト君、魔力はどれくらい持ちそうかな。」
「これくらいなら丸一日だってへっちゃらですよ。」
「そう…君は本当に凄いんだね。それじゃあ、行こうか。」
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