第147話 精霊たちの説得
「それでは、お願いします。」
微笑むギルマスに、こくりと頷きを返して馬車の方へと向かう二人の精霊。
エメラとコハクが獣人たちの前に姿を現し、「アルト達を信用してほしい」と説得する手筈だ。
獣人たちが精霊を崇めているということはギルマスも知らなかったらしく、彼はレシェンタの知識に驚いていた。
馬車の中でエメラとコハクの姿を見た獣人たちは、とても驚いた様子だった。
しかし、それ以上に驚いたのは獣人以外の――二人の精霊とアルトたちだった。
獣人たちは鎖をジャラジャラと鳴らしながら全員が膝をつき、床につかんばかりに頭を下げたのだ。
慌てて彼らに頭を上げさせたエメラは、咳払いをして話し始めた。
――自分とコハクがアルトの契約精霊であること。
――アルトとその仲間の人間は本気で獣人たちを助けようとしていること。
――彼らが悪人でないことは精霊である自分たちが保証すること。
これらを伝え、彼らの説得を試みた。
突然の事態に困惑していた獣人たちだったが、コハクの「私たちの言葉が信じられない…?」というセリフで再び皆が平伏した。
結果、獣人たちはあっさりとアルト達を信じることにしたようだ。
それだけ精霊に対する信仰、あるいは信頼が強いのだろう。
「それじゃ、まずは治療ね。」
「ちょっと待ってレシェンタさん。先に試してみたいことがあるんだ。」
「?…わかったわ。」
一瞬不思議そうな顔を見せたレシェンタだったが、アルトにはアルトなりの考えがあるのだろうとすぐに引き下がる。
「アルト、あれを試すのね?」
「うん。」
わくわくした様子のエメラの問いかけに頷いたアルトは、ゆっくりと馬車に近づく。
「アルト君は何をするつもりなんだい?」
「「さぁ…?」」
その様子を不思議そうに見守る大人三人。
「えっと、その首とか手足の…嫌ですよね。今外しますから、じっとしててくださいね……【開錠】 」
獣人たちに向かって手をかざしたアルトがそう唱えた途端――カチャ、カチャリ、ガシャン、と音を立てて、首輪も手枷も足枷も、すべての拘束具が次々に外れていった。
身構えていた獣人たちは皆、呆気に取られて驚いている。一様に目をパチクリさせ、信じられないといった様子で自由になった手足を見つめている。
その様子にヒュウッと口笛を吹きつつ、アルトに歩み寄るキース。
「なあアルト、今の魔法って…」
「“賢者の魔導書”に載ってたんだよ。役に立ちそうだなって思って、覚えたんだ。」
朗らかに笑いながらそう言うアルトに、ふらりと眩暈を覚えそうになるレシェンタ。
「初めて使った…のよね。それも無詠唱で。」
「えへへ。実はこっそり、宿の部屋の鍵で練習したんだ。詠唱は…今までやってなかったから何だか照れちゃって。でも上手くいってよかったよ。」
「本当に凄い魔法だね…アルト君のおかげで助かったよ。ありがとう。」
アルトの肩に手を置きながら、ニコッと微笑むギルマス。
魔法が役に立ったことを誇らしく思う一方で、自分よりも年上のギルマスから感謝される感覚に、どこか照れくささも感じるアルトであった。
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