第146話 獣人
「はぁ…予想はしていたけれど、やっぱり警戒心が強いわね。取り付く島もないとはこのことだわ。」
「…だな。」
「ええ。」
そう言って表情を曇らせるレシェンタとキース、そしてギルマス。
「?」
何か知っている様子の三人の横で、疑問符を浮かべて首を傾げるアルト。
「あー…アルトは獣人に会うのは初めてなのね。というか、存在自体初めて知ったってところかしら?」
レシェンタの問いに、コクリと頷くアルト。
「そっか…この状況で知らなくていいってわけにはいかないわよね。あっちで話しましょうか――」
ちょいちょいっとアルトを手招きして更に馬車から離れたレシェンタは、獣人という種族に関して小声で説明を始めた。
彼らは、一般的に“獣人”と呼ばれる種族である。
獣人の身体的な構造は人間と酷似しているが――獣のような耳と尾をもつのが特徴的だ。
また、本物の獣ほどではないものの爪は鋭く、牙をもち、尚且つ力も強い。
更に人間とは異なるのが、獣人はその全てが大なり小なり魔力を有している点である。
このことから、獣人を魔獣に近い存在として忌避する人間もいる。
獣人の多くは遥か北の“レガルドロス”という獣人の国で暮らしている。
一方で、アルト達の暮らすこの国では特に、亜人――獣人を含む“人間以外の種族”――に対する風当たりが強く、獣人たちはこの国では差別・迫害されている。
そのため、この国で暮らす数少ない獣人たちは、人間に対して強い警戒心と敵対心を抱いていることが多い。
「どうして差別なんてするの?獣人の人たちが、何か悪いことをしたの?」
「いや、そういうわけじゃない。」
いつの間にか会話に混ざってきたキースはアルトの質問に首を振る。
「〝個人的に”とか〝その昔”って話はわからないが、俺の知っている範囲ではそういう理由じゃない。レシェンタはどうだ?」
「右に同じ。いろいろ逸話はあるけれど、どれもこじつけや言いがかりの域を出ないわ。」
キースの問いに、呆れたように肩をすくめるレシェンタ。そしてキースは、少し躊躇ったのちに口を開く。
「普通は、自分とは違う得体の知れない存在や、理解できない不思議なものを“怖がる”もんだ。自分の身を守るためにも恐怖は当然の感情といえる。」
キースの言葉を聞いていると、どことなく引っかかりを感じるアルト。しかしそのことは口にせず、相槌を打ちながら黙ってキースの話を聞く。
「だがその“怖い”って感情が行き過ぎて“あっちへ行け”って攻撃的な態度になることがある。それで、この国の人間は獣人と見りゃ差別…良くても腫れもの扱いってわけさ。」
(ああ、そっか。)
アルトが感じた引っかかりとは、既視感だとか、身に覚えがあるだとかいう――そう、不思議な力をもつ自分を遠ざけ、虐げた――元家族のこと。
「悪い。嫌なこと思い出させちまったな。」
アルトの反応から何かを察したのか、眉を下げて謝るキース。
「ううん、あれは昔のことだからもう平気。今は僕のことを凄い凄いって褒めてくれる仲間がいるもの。心配してくれてありがとう。」
確かに獣人たちの境遇に過去の自分を重ねたアルトだったが、それはあくまでも“昔の自分と似ている”という事実に気づいただけのこと。今更過去を振り返って嘆いたり、悲しんだりするアルトではなかった。
「そ…っか。強いな、アルトは。」
ポツリとそう零したキースは、ぐしゃぐしゃっとアルトの頭を撫でた。
「あ!大事なことを忘れてたわ。確か、獣人は精霊を崇めているはずよ。」
「「精霊を?」」
レシェンタの言葉に、同時に聞き返すアルトとキース。
「ええ。詳しくは覚えていないけれど、チラッと文献で読んだ記憶があるの。」
「それだったら…エメラ、コハク、協力してくれる?」
「もちろん。」
「任せといて!」
アルトに呼ばれた二人の精霊は、待ってましたとばかりにカバンの中から飛び出してきた。
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