第142話 話を戻すぞ
「アルトがこれだけ言っているのに、何で信じないのよ!」
腰に手を当て、パストーラの眼前にふわふわと浮かびながら小さな身体でがなり立てるのは――エメラだった。
「さっきから聞いていれば暴走するだの襲うだの、テナに対しても失礼なんじゃない?テナはそんなことしないし、私たちだってそんなことさせないわよ!」
「エメラ、興奮しすぎ。それにこの眼帯、さっき何か言いかけてた。」
鼻息荒く飛び出してきたエメラを諫めようとするコハク。しかし、その制止はいつもよりもどこか控えめだ。
パストーラを“眼帯”呼ばわりするあたり、やり取りを聞いていたコハクも多少思うところがあったのかもしれない。
「エメラ!コハク!もう、勝手に出てきちゃダメって言ったのに…」
契約者の溜息をよそに、やいやいと言い合っている二人。
「君には驚かされっぱなしだね。その二人は…精霊、だよね。」
ギルマスに指摘され、一瞬ピシリと固まるアルト。キースやレシェンタの方に目を向けると、二人とも苦笑いしながら頷いている。
ここまで派手に姿を見せてしまっては、言い逃れなどできないだろう。
「あ、えっと、はい。そうです。ほら二人とも!ちゃんと紹介するから大人しく座って。」
アルトにそう言われて、ようやく静かになる二人の精霊。それぞれアルトの右と左の肩に、ちょこんと座る。
「隠していてすみません。風の精霊のエメラと、土の精霊のコハク、二人とも僕の契約精霊です。」
「まさかとは思ったけれど、やっぱりそうなんだね。君は本当に凄いなぁ。」
のほほんと笑っているギルマスの横では、パストーラが何やら顔を引きつらせている。
「アルトは魔導書に認められた賢者だし、冒険者ランクだってこれから上がるわ。今までだって―――」
そうして、エメラはこれまでにアルトがやってきたことをいくつか話した。
精霊である自分を助けたこと。
ガルザの群れや剣大蛇を倒したこと。
トレントを倒して近くの村を救ったこと。
ゴブリンの群れをたった一人で殲滅したこと。
「それに精霊の私たちもついてるんだから、テナは大丈夫よ。」
熱く熱く語り、そのように締めくくるエメラ。
いつの間にかアルトの肩からは降りており、その隣に浮かぶコハクもコクコクと頷いている。
アルトは照れ笑いを、キースとレシェンタは苦笑いを浮かべている。
特に驚く様子を見せないギルマスは、恐らく事前にギルドでアルトの経歴を調べていたのだろう。
視線を向けると頷きを返すキース達の様子から、エメラの話が嘘や誇張ではないと判断するパストーラ。
額に拳を当てるようにしてしばらく黙っていた彼は、大きなため息を吐いて顔を上げた。
「貴様という奴は…何者なんだ。一体どこを目指しているんだ。」
「僕は普通の、駆け出しの冒険者ですよ。今はレシェンタさんと一緒に、王都を目指してます。」
パストーラの質問に、キョトンとしながら答えるアルト。その返事にガクッと崩れそうになる眼帯の男。
(((違う、そうじゃない!)))
キースもレシェンタも、アルトの返答に笑いをかみ殺している。一方でギルマスはというと、楽しそうにクスクスと笑っている。
「~~~っ!おい、この小僧は本気で言っているのか。」
「そうです。色々凄い奴なんですけど、無自覚なのが玉にキズで。」
急に話を振られて面食らったキースだったが、へらりと笑って答える。
キースの言っている意味がよくわからず、首を傾げるアルト。その仕草がまた、パストーラを若干苛立たせる。
「その年齢にしてBランク冒険者で、一角黒豹を連れたテイマーで、契約精霊が二人もいて、賢者の魔導書の所有者で、それに加えて先程の話の数々……あれで普通だと?無自覚にも限度があるぞ。」
ますます首を傾げるアルトに、呆れたように溜息を漏らすパストーラ。
「はぁ…もういい。ひとまず話を戻すぞ。そこの精霊に遮られた件だが……俺は貴様を認めることにした。」
「ほ、本当ですか!?」
喜びのあまり、思わず立ち上がるアルト。
「ああ。まだ若さ故に未熟な部分もあるが、素質は十分にあると判断した。」
パストーラの言葉に満足気に頷くエメラだったが、そもそも彼の言葉を遮って話の腰を折った張本人は彼女である。
「但し――貴様には、テイマーの何たるかを俺が叩き込んでやる。それが、貴様をその一角黒豹のテイマーとして認める条件だ。」
テイマーとしての心構えなどを教わりたいと思っていたアルトにとって、パストーラの言葉は正に渡りに船の提案だった。
「はい!よろしくお願いします!」
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