第140話 叱ると甘やかすの使い分け
「「…?」」
ちょこんと床に座る黒い子猫を前に、首を傾げるギルマスとパストーラ。
彼らが不思議に思うのも無理はない。今のテナの外見は完全に普通の黒猫なのだから。
「テナ、眼帯をしているのがテイマーのパストーラさん、一緒に居るのが彼の従魔で火炎鷲のグレン。それから、この町のギルマスさんだよ。ちゃんと紹介したいから、大きくなって見せてくれる?」
「にゃあ!」
しゅるる、と大人の姿へと変化するテナ。
「っ!?」
「まさか…」
その信じがたい光景に、目を見開くギルマスとパストーラ。従魔のグレンも驚いたのか、バササと羽ばたき、後ずさるかのように後ろの止まり木へと移動した。
「えっと、僕の従魔で一角黒豹のテナです。」
「がう。」
「驚いたよ…君の従魔が一角黒豹なのはギルドの登録を調べて知っていたけれど、まさか姿を変えられるだなんてね。」
そう言って前髪をくしゃりとかき上げるギルマス。
「ああそうだ…二人ともこの場で見聞きしたことは他言無用でお願いしますよ。ま、話だけで信じる人間はそうそういないと思いますが。」
キースの言葉に、コクリと頷きを返す二人。
「なるほど。“結構驚かせてしまうかもしれない”っていうのはこのことだったんだね。」
「あー…まぁ、そんなとこです。割り込んで悪かったな、アルト。話を続けてくれ。」
アルトのびっくり箱のような隠し事はまだまだあるため、ギルマスには適当にはぐらかして話題を変えるキース。
「わかったよ。えっと、今のところ僕の従魔はこのテナだけです。」
「一角黒豹か…また随分と珍しいな。」
アルトにすり寄るテナを見て、微かに目を細めるパストーラ。
「それで、貴様は俺に何を聞きたいんだ?」
「僕は世間知らずな子供で、まだまだ知らないことが多すぎます。なので、テイマーの心構えとか、絶対に忘れちゃいけないことを教えてください。」
「そうか……。」
少しの沈黙の後、パストーラは腕組みをしたまま話し始めた。
「テイマーとして登録した際、ギルドからの説明は聞いたな?」
「はい。一通りは。」
あの時は説明事項が多すぎて、細かいところは頭に入っていなかったアルト。それでも、「テイムした従魔を捨てない」など、言われなくてもしないようなことばかりだった記憶はある。
「よし。まず、テイマーはテイムした従魔を制御する必要がある。本来危険な存在である魔獣を連れ歩く以上、それは絶対だ。」
「わかりました。あの、じゃれる時に顔を舐めてくるのを止めてくれないとか、そういうのも叱らなきゃダメですか?」
アルトの質問に吹き出しそうになるキースとレシェンタだったが、アルトは至って真剣だ。まだ幼いアルトにとって、叱ると甘やかすの使い分けは非常に難しいのである。
「その程度ならば問題はない。本気で拒絶しても続ける場合は、叱るべきだがな。」
アルトが駆け出しのテイマーだからか、パストーラも笑うことなく真剣に答える。
「はい!」
読んで下さってありがとうございます。
誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
ブックマークや評価、いいね等で応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!