第139話 テイマーの在り方
「テイマーとしての考え方はそれぞれだが…目指す方向性が違っては何を教えても無意味だ。例えば…従魔は道具の一つだ、とかな。」
「道具?」
パストーラの思いもよらない言葉に疑問符を浮かべるアルト。
「ああ。テイマーにとっての従魔は、荷運びのための荷車や、戦闘のための武器と同様である、と。」
「そんな…」
自分とはあまりに違う考え方に絶句するアルトだったが、パストーラはなんでもないという風に軽く肩をすくめる。
「テイムした従魔とて、魔獣であることに変わりはない。“馴れ合いは禁物だ”と、利害の一致した契約相手、あるいは厳格な主従として一線を引いた接し方を良しとするテイマーたちは過去にもいた。」
いつの間にか左腕に止まっていた鳥のような魔獣――おそらく彼の従魔だろう――を撫でながら、話を続けるパストーラ。
「俺や貴様の考え方とは異なるが、それが必ずしも間違っているとは思わない。信賞必罰――そういう考え方と接し方で従魔を完全に制御し、従えていた者もいた。世の中には、そういう形で成り立つ信頼関係もあるのだ。」
「?」
「成果を出せば褒めたりご褒美をあげたりするし、逆に悪いことをすればきちんと罰する――仲良しこよしのお友達じゃなく、厳しくルールを決めたり躾をしたりして、それぞれの立場をはっきり区別したってところかな。」
パストーラの小難しい言い回しに疑問符を浮かべていたアルトに、苦笑しながらギルマスが解説する。
「あ、ありがとうございます。わかりやすかったです。」
ペコリと頭を下げるアルトと、いやににこやかなギルマスの様子を見て、ゴホンと咳払いをするパストーラ。
「だが、どういうわけかその主義をはき違えて己に都合よく解釈する者もいる。“一線を引いて互いに尊重する関係”ではなく“気遣いも信頼も無用の道具”とな。」
パストーラは苛立たしげな表情で眉間に皺を寄せつつ、言葉を続ける。
「未熟な従魔が大人しく従っているうちは楽だろうが、そんな輩はいずれ手痛いしっぺ返しを食うだろうな。」
アルトの脳裏には、昨日見かけた大地狐とドウルという男の姿が浮かぶ。
「昨日町で、狐――たぶん大地狐の従魔に…その、酷いことをしているテイマーを見ました。」
「ああ、それはきっとドウルだな。あの男、いくら忠告してもこちらの話など聞きもしない。」
呆れたように腕組みをするパストーラ。ドウルのことを知っている口ぶりだが、互いに同じ町に住むテイマー同士なのだから、話したこともあるのだろう。
「えっと、従魔を道具って…あんな人が他にもいるんですか?」
「あれほど極端で浅慮なのはあの男くらいだ。他は“道具”と呼ぶ以上、最低限の世話や扱いをしているはずだ。」
その言葉を聞いてほっとする半面、あの従魔が劣悪な環境にあることを再確認し、無意識に表情を歪めるアルト。
「そもそも、普通は“従魔を虐待する”などという発想に至らない。先ほども言ったが、テイムしているとはいえ魔獣は魔獣――鋭い牙や爪をもつ。油断は禁物だ。」
「パストーラさんの言う通りだね。従魔に抵抗されて軽く引っかかれるだけでも、大怪我したり失明したりすることだって有り得るんだ。」
失明――ギルマスの言葉に、アルト達三人はチラリとパストーラの眼帯に目をやる。
「おい、勘違いをするな。俺の目はグレンのせいじゃない。」
「グレン?」
「ああ。俺の従魔――火炎鷲のグレンだ。」
パストーラに名前を呼ばれると、グレンと呼ばれた従魔は一度バサッと翼を広げ、挨拶するように短く鳴いた。
その火炎鷲は見事な深紅の鷲だった。その美しい翼も鋭い鉤爪も、しっかりと手入れが行き届いている。
その姿に見惚れて言葉を失っていたアルト達だったが、はっとしてペコリと会釈を返した。
「ところで、貴様の従魔はどこにいる?姿が見えないようだが…」
そう言われて、テナを見せようとカバンを覗き込むアルト。
「テナ、起きてる?…よかった。会わせたい人がいるから、出ておいで。」
アルトに呼ばれ、カバンから出てトトッと床に降り立つテナ。
「にゃあ!」
読んで下さってありがとうございます。
誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
ブックマークや評価、いいね等で応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!