第133話 二人の魔法
手分けした甲斐あって、ゴブリンの下位種三十八体、上位亜種六体の計四十四体分の討伐証明があっという間に回収できた。
ちなみに生き残りのゴブリンはいなかったようで、アルトの魔法の凄さを改めて実感した大人たちだった。
「ありがとな、助かったよ。」
「ありがとうございました!」
「私からもお礼を言うわ。ありがとう。」
討伐証明の耳を受け取ってお礼の言葉を口にするアルト達に、ゲイリーとガヤルドが代表して答える。
「こちらこそ、Bランク冒険者の役に立てて光栄だ。」
「俺たちは戦闘の役には立てなかったからな。これくらい軽いもんだぜ。」
ふと、目の前に積み上がったゴブリンの死体の山を見ていたアリアがポツリと言葉を漏らす。
「ところで、ゴブリンの死体はどうするんですか?少なくともペザンテのギルドや武器屋では、ゴブリンの素材は扱っていないですよ。」
アリアの言葉に、ゲイリーとガヤルド、そして各々のパーティーメンバー達はピシリと固まった。
「あー、そう言えばそうだったな。この数の処分はきついぞ…ギルドに頼むか?」
ゲイリーの言葉に、ふむ、と顎に手を添えるキース。
魔獣を倒した後、当然ながらその場には魔獣の死体が残る。それを長期間放置すると、血の臭いで他の魔獣が寄ってきたり、疫病が発生したりすることがあるのだ。
そのため、必ず事後処理をする必要がある。
自身で事後処理をする場合は炎や雷の魔法、あるいは爆薬や火炎瓶などを用いて燃やすのが一般的である。
以前アルトがしたように、討伐した魔獣を丸ごと、あるいは肉や骨などに解体してギルドに持ち込む冒険者もいる。が、今回のような大量の魔物を運ぶのは、普通の冒険者には不可能といえる。
事後処理をギルドに頼むこともできるが、その場合は討伐報酬からその手数料が引かれるようになっている。手間や金を惜しんで事後処理を怠った冒険者には、罰金や評価マイナスなどのペナルティが課せられる。
ちなみに、迷宮内は例外である。なぜかダンジョンの中で倒された魔獣の死体は、しばらく放置するときれいさっぱり消えてしまうのだ。
詳しいことは解明されていないが、そもそもダンジョン自体が不思議な空間であるため、一般常識が通用しない点は多々あるのだ。
「いや…レシェンタ、任せてもいいか?」
「え?」
キースの発した想定外の言葉に、目をパチクリとさせるゲイリー。その後ろでは他のメンバー達も同様に疑問符を浮かべている。
「いいわよ。あ、そうだ。アルト、ちょっと耳を貸して。」
戸惑うゲイリーたちをよそに、レシェンタはアルトに何やら耳打ちする。
「――なんだけど、頼める?」
「もちろん!」
「決まりね。それじゃあ、皆は下がってて。近づくと火傷しちゃうわよ。」
杖を取り出したレシェンタは、さっさと皆を下がらせる。
「ちょっとちょっと、どういうこと!?」
慌ててメネットがキースに詰め寄る。
「見りゃわかるだろ。レシェンタとアルトが魔法で解決してくれるってよ。」
キースの言葉にそんなまさか、とざわめくゲイリー達。
メネットと他の三人も半信半疑といった様子で、戸惑いを隠せずにいる。
「ほらほら、そんなこと言ってる間に、もう詠唱が終わるぞ。」
「え?」
「――【火球】」
レシェンタの炎魔法でゴブリンの死体の山は燃え、あっという間に灰になっていく。
「【火球】ってあんな数出せるもんなのか?」
「そんなわけないでしょ。普通、3~4発がせいぜいよ。」
想像以上の魔法にポカンと口を開けて立ち尽くすゲイリー達。
「さ、さすが姐さん…やっぱり凄い魔法使いなんじゃん。」
「それは俺も否定してねえだろう。レシェンタも十分凄腕の魔法使いさ…アルトが凄すぎるだけだ。」
キースの言葉に驚いたような表情を見せつつも、すぐに視線をごうごうと燃える炎へと向けるメネットだった。
「アルト、そろそろいいわよ。」
レシェンタの合図に頷きを返し、斜め上に手をかざすアルト。
「【降雨】」
アルトの魔法によって降り注ぐ雨で、レシェンタの起こした炎は消え、ゴブリンたちの血も洗い流されていく。範囲を限定したので、アルトたちはほとんど濡れていない。
目の前で起こる奇跡のような出来事の数々に、思わず天を仰ぐゲイリー達。
「なあ、あの二人の魔法っていつもこんな威力なのか?」
「俺に聞くなよ。アルトが凄腕の魔法使いってのも、今日知ったところなんだぜ。」
ガヤルドの返事に、深い溜息をつくゲイリー。
「そっか…俺たちのパーティーはこの間やっとDランクに上がって喜んでたんだが……Bランクは遠そうだ。」
「ああ。お互い頑張ろう。」
雨の音に紛れた二人のリーダーのやり取りは、他の誰の耳にも届きはしなかった。しかし、この場にいるほとんどの者の胸中を代弁した形になったのは言うまでもない。
雨が止み、問題なく事後処理が完了したことをキースとゲイリー、ガヤルドが確認する。
「よし、問題ないな。んじゃ、ペザンテまで行きますか!」
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