第13話 黒い猫と赤い男
アルトはバリアを解除して男性に駆け寄り、彼の口元に手を当てて呼吸を確認する。
「…よかった、まだ息がある。えっと、止血を…いや、こっちの方が早いかな。【治癒】!」
男性の傷を治しながらひとつ深呼吸をし、魔力感知で周囲の様子を探るアルト。
「……うん、もう襲われる心配もなさそうだ。エメラの方はどうかな?」
どうやら近くに強い魔獣はいないようなので、少しだけ気を緩める。
「アルト!こっちのバリアも解除してくれたら、私たちもそっちへ行けるわ!」
「わかったー!」
エメラに返事をして、子猫にかけていたバリアを解除する。すると、エメラと子猫が一緒にアルトの方へとやってきた。
全員が集まったところで、念のため周囲に【安全地帯】をかける。バリアの影響で周囲の景色が一瞬揺らいだことに驚いたのか、子猫はビクリと身体を震わせる。
「ああごめん、驚かせちゃったかな。えっと…これ、食べるかい?」
片手で治療を続けながら、もう片方の手で器用にカバンを探り、干し肉を取り出して子猫に差し出すアルト。子猫は一瞬躊躇った様子で、干し肉とアルトの顔を交互に何度も見ている。
「ああ、もしかして……ほら、食べても大丈夫だよ。」
アルトが干し肉の端をかじって見せると、子猫はようやく警戒を解いたようだ。アルトの手から干し肉を咥えて受け取り、前足で押さえてはむはむと食べ始めた。
「よかった。この子もエメラも、怪我はないみたいだね。」
「ええ、アルトのおかげよ。魔獣が急にこっちに来るんだもん、ビックリしちゃったわ。」
エメラが肩を竦めながら言う。彼女の魔法でも対処できたのだろうが、急なことで驚いたのだろう。
「あれは僕も焦ったよ。慌てて炎弾を撃っちゃったけど、外れたりエメラの風魔法とぶつかったりしたら危なかったよね。土造形とかで動きを封じるべきだったかなぁ。」
「その辺は今後の課題ね。敵を拘束できる魔法も考えてみましょう。ところで、その人は大丈夫なの?」
その人…赤い髪の男性は、まだ目を覚まさず横になっている。
「うん。怪我が酷くて気絶しちゃったみたいなんだけど、傷の方はもうそろそろ治ると思うよ。もう少し早く助けに入ればよかった…」
アルトが項垂れていると、エメラが頭をぽんぽんと撫でる。
「アルトのせいじゃないわ。この人の攻撃も素早かったから、割り込めるタイミングなんて他になかったもの。怪我をしたのは魔獣のせい。むしろアルトはこの人とあの猫、両方を助けたんだから、自信を持って!」
「うん。ありがとう、エメラ。」
エメラの言葉に気を取り直し、治療に専念するアルト。
男性の傷が癒えると、アルトはカバンから毛皮を数枚取り出して地面に敷き、そこに男性を寝かせた。さすがに、素の筋力で大人の男性を持ち上げることはできなかったので【身体強化】を使った。
今後は【飛行】を自分以外にもかけられるように練習しようと思ったアルトだった。やはり、実践の中で学ぶことは多いようだ。
男性が目を覚ますのを待つ間に、バリアの外に倒れているガルザたちを一箇所に集め、【障壁】を張っておいた。
普段ならば狩った魔獣はすぐに解体して毛皮や牙などを回収する。食べられそうなら肉も食べるが、食べられなさそうなら血の痕跡と一緒に燃やすか、水で流してしまう。そうしないと、血の臭いで他の魔獣たちが集まってくる危険性があるからだ。
しかし、今回の魔獣―ガルザ―と先に戦っていたのは赤い髪の男性だ。獲物を横取りされただとかで揉めるのは嫌なので、血の痕跡を消すだけにして待つことにした。
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