第125話 例えば?
「ねえキース、あれでよかったの?彼ら、また森に入っちゃうんじゃ…」
「放っとけ。馬鹿は死ななきゃ治らねえよ。」
レシェンタの言葉に、つっけんどんに返事をするキース。
「1年も冒険者やっててあれは酷い。実力は知ったこっちゃないが、オツムはFランクかそれ以下だ。」
これまでアルトの前では大人らしく振舞っていたキースの珍しい(むしろ懐かしい)口汚さに、苦笑を漏らすレシェンタ。
「ま、それは同意するけどね……そろそろその怒気収めなさいよ。アルトが怯えてるわ。」
小声で付け足されたレシェンタの言葉に、目を丸くするキース。
チラリとアルトに視線を向けると、どこか緊張した面持ちできゅっと口を結んでいるのが見えた。
レシェンタに指摘され、先の振る舞いをアルトの前で見せてしまったことを反省するキース。
目元を片手で覆って深呼吸し、パッと気持ちを切り替える。
「悪いアルト、感情的になりすぎた。俺もまだまだだな。」
苦笑しながらいつも通りに話すキースを見て、ほっと表情を緩めるアルト。
「ううん。でもびっくりしたよ。」
「キースは彼らのことを心配していたからこそ、怒ったのよね。」
「キースは間違ってない。あの人たち、馬鹿。」
いつの間にかアルトのカバンから出てきていたエメラとコハクも、会話に混ざる。テナはまだカバンの中で寝ているようだ。
「なんであの人たち、キースのアドバイスをちゃんと聞こうとしなかったんだろう。」
心底不思議そうにしているアルトに、頭を掻きながら答えるキース。
「ま、新人冒険者にはよくあることさ。実力を過信したり、妙に楽観的だったり、ランク分けを軽視したりってのは。それでも大抵は、一度痛い目を見て学ぶモンなんだがな。」
己の実力を過信するのは、新人冒険者にはよくあることだ。
しかし、他人の助言を聞き入れられない頑固さや異常な楽観主義は、低ランク冒険者には文字通り命取りである。
それをよく知っているキースだからこそ、彼らを諭そうとしたのだが……それも徒労に終わった。
「実際に痛い目を見ても、学ばなかったわね。」
「やっぱり、馬鹿。」
「エメラもコハクも直球ね。」
「でも、悪い人たちじゃなさそうだったよ。」
アルトの言葉に「それは確かに」と頷いて同意を示すエメラとコハク。
「ああ、連中は決して悪人じゃあない。しかし度を越えた馬鹿ってのは、悪人よりも質が悪いことがある。」
「?」
キースの言葉の意味がよくわからず、キョトンとするアルト。
「悪意なく、とんでもないことをやらかす。そして馬鹿だから、それがどんな結果を招くかを想像できない。更に酷い奴は何が悪いかわからないから、反省もできない。」
「例えば?」
苦虫を嚙み潰したような表情を見せるキースに、レシェンタはちょっとワクワクしながら尋ねる。
「興味本位で虫系の魔獣の巣を突いたり、斥候の指示を無視してトラップに突っ込んだり、今なら何でもできそうとか言って適当に依頼を選んだり……ま、色々だ。」
「「「うわぁ。」」」
いやに具体的な内容なので、それが今までにキースが見てきた“馬鹿な人”の行動だとすぐに察する一同。
その想像以上の蛮行に、ドン引きするアルト達。コハクも無言で眉間に皺を寄せている。
笑い飛ばすつもりで尋ねたレシェンタでさえ頬をヒクつかせ、心の中でキースに同情していた。
「俺に言わせりゃ、どうなるか分かった上で意図的に行動する分、悪人の方がまだマシだ。まだ行動が読めるからな。」
そう言ってキースが笑い飛ばして、この話は終わった。
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