第124話 命知らず
何とか笑いやその他諸々を堪えて顔を上げたキースは、とりあえずいくつかの疑問を彼らに投げかける。
「その“とある貴族”って、正確にはどこの誰なんだ?」
「ニシャの実で何が治るんだ。怪我か?病気か?」
「仮にニシャの実を手に入れたとして、買い手のアテはあるのか?」
そのような質問が来るとは思わなかったのか、キョトンとした顔を見せた後でごにょごにょと言葉を濁す四人。
「ハァ…下調べも雑なもんだな。そんな不確かな噂を真に受けて、森の奥へ?」
想像通りの反応に、大きくため息をつくキース。
「命知らずというか、自殺行為もいいとこだぞ。Eランクのパーティーが森の奥へ行くなんて、ギルドの人間に相談したときに止められなかったのか?」
すると今度は、気まずそうに顔を見合わせる四人。
目は口程に物を言う、とは正にこのことだ。
(あ、相談してなかったんだ。)
こればかりは、さすがにアルトも彼らの態度から察した。
「ま、Eランクパーティーなら所在報告の義務はないが…次からはギルドに相談してから動くんだな。とりあえず、今回は諦めて帰れ。」
「えぇーっ!?せっかくここまで来たのに…」
抗議の声を上げたのはメネットだった。他の三人も声にこそ出さないが、その表情や仕草は「メネットと同意見だ」と物語っている。
「話を聞いていなかったのか?森の奥じゃどんな魔獣に出くわすかわからない。今のお前たちじゃ無理だ。」
キースがバッサリと言い放つと、四人からは不満が噴出した。
「無理だなんて、勝手に決めつけないでくれないか。」
「そうだよ、アタシらの実力も知らずに!」
「さっきは…その、ちょっと油断してただけだぜ。」
「そ、そうです!戦いに集中して、皆で連携すれば、たとえCランクの魔獣が相手でも…」
アリアの言葉に、そうだそうだと同調する三人。
そんな彼らを冷めた目で見つめ、フッと鼻で笑うキース。
「戦いに集中するのも、連携するのも当たり前だ。森の中で油断すること自体、冒険者としてなってない。それから…何のためのランク分けだと思ってるんだ。全員、基本からやり直せ。」
キースの言葉に、直情型のメネットが食って掛かる。
「さっきから聞いてりゃ偉そうに!アタシらはそこの姐さんに助けられたんだ。あんたじゃない。恩人でも何でもないあんたに、そこまで言われる筋合いはないよ!」
他のパーティーメンバー達は、メネットを諫めも止めもしなかった。
表情から察するに、皆少なからずキースに反感を持っているのだろう。
「そうか、それなら勝手にすればいい。」
彼の呆れと静かな怒りに気づかない四人は、自分たちの熱意にキースが折れたと思い、パッと顔を輝かせる。
一方でレシェンタとアルトは、滅多に見ないキースの様子に息を呑み、身を固くしている。
「ただ、忘れてるようだから教えてやるが…偶然俺たちが通りかからなきゃ、お前たちは今頃あの世だ。」
キースの冷たい声に、びくりと肩を震わせるアリア。十字蜘蛛との戦闘を思い出したのだ。
「おまけにポーションも全滅。ニシャの実があるのは森の奥の更に奥。BランクやAランクの魔獣もいるだろうな。」
BランクやAランクの魔獣と聞いて、身震いするガヤルドとセイ。
「でも…っ!」
何か言い返そうとしたメネットも、ぱくぱくと口を動かすだけで言葉が出てこないでいる。
「せっかく拾った命を捨てたいのなら、それもお前たちの自由だ。忠告はした…後は好きにするんだな。アルト、レシェンタ、行こう。」
立ち上がって背を向けるキースに促され、慌てて立ち上がって後を追うアルトとレシェンタ。
後に取り残された四人は、ただ無言で俯いていた。
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