第122話 ポーションと光魔法
「確か、いつもこのカバンに……っそんな!」
カバンの中をごそごそと探っていた青年は、悲痛な声を上げた。なんと、彼女のカバンの中に入っていたポーションの瓶は全て割れ、中身が流れ出てしまっていたのだ。
途方に暮れる青年の後ろから、何事かとカバンの中を覗き込むキース。
「参ったな…他に誰か持っていないのか。」
「これで全部です。ポーション類は後衛の彼女が全て管理していたので…」
そんな彼の言葉に頭を抱えるキース。
そこへ、止血処置を終えてこちらにやってきたレシェンタがこともなげに言った。
「仕方ないわね、私がやるわ。」
「え?」
レシェンタの言葉に、キョトンとした顔を見せる青年。
「あー、アイツはああ見えて光魔法が得意でな。君も怪我してるだろ。ついでだし、一緒に治してもらえ。」
「“ああ見えて”は余計よ。」
キースの言葉にピシャリと反論するレシェンタ。
カラカラと笑うキースの横で、信じられないという表情を見せる青年。彼の中でレシェンタは“炎の魔法が得意”だと位置づけられていたので、実は光魔法が得意だと聞けば驚くのも無理はない。
「アルト、そっちの女性の糸はもう切れたかしら?」
「うん。今終わったところだよ。重症ではないけど、この人もあちこち怪我してるみたい。」
「わかったわ、ありがとう。それじゃ、解毒と治療は私に任せて。キースとアルトは周囲の警戒をお願いね。あなたはこっちへ。」
てきぱきと指示を出すレシェンタ。どこか生き生きしているのは、先ほど攻撃魔法でアルトに後れを取った反動だろうか。
そう思ったキースは、この場をレシェンタに任せて大人しく従っている。
「おう。」
「任せといて!」
アルトとキースはレシェンタに言われた通り周囲を警戒しつつ、黒焦げになった十字蜘蛛から取れそうな素材を回収していった。
◇
それから、レシェンタの光魔法で無事四人の治療と解毒が完了した。
気を失っていた三人も目を覚まし、揃って深々とレシェンタに頭を下げた。
というのも、槍使いの青年がやたらとレシェンタを持ち上げて“命の恩人だ”と強調したからである。
落ち着いたところで、森を出て街道へと移動する一行。
緊張が解けたのか、それぞれ自己紹介をしつつ思い思いに口を開く四人。
彼らは結成して1年ほど経つEランク――もうすぐDランクに昇格する予定らしい――の冒険者パーティー。
見たところ、四人ともキースとレシェンタより少し年下くらいの年齢だろうか。
「本当に助かったぜ!正直、死ぬかと…」
血を流して倒れていた黒髪の彼は、大剣使いのガヤルド。がっしりした筋肉質な体つきの彼は、このパーティーのリーダーだ。
「まさかあんなに強い蜘蛛が出るなんて思わなかったよ。殴った拳の骨が折れるかと思った!」
オレンジ色のショートヘアをガシガシと掻きながら笑う彼女は、格闘家のメネット。
「考えなしに突っ込むから、毒なんて食らうんだよ。運よく【浄化】の魔法を使える人に助けてもらえたからよかったものの…」
オリーブ色の髪で長身の青年――槍使いの彼は、セイ。
「ごめんなさい。まさかポーションが全て割れてしまっていただなんて…」
水色のセミロングの髪を結った彼女は、弓使いのアリア。自分のせいで仲間を危険に晒したと、しょげ返っている。
「アリアのせいじゃないよ。そもそも、前衛の僕らが崩されたせいなんだから。」
彼らが矢継ぎ早に話すせいで、十字蜘蛛を倒したのはアルトだということは伝え損ねたままだ。
レシェンタは居心地悪そうにしていたが、キースは面白そうだからと敢えて黙っている。
アルトはというと、手柄や名声には全く無頓着なので、純粋に四人が助かってよかったとニコニコしているのだった。
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