第120話 蜘蛛の魔獣と冒険者
トレモロのギルマスから貰った紹介状をもって、ペザンテの町を目指すアルト達。
道中はこれから会う予定のテイマーと“賢者の魔導書”とへの関心で、どこか興奮気味の一行。
相手はどんな人か、魔導書にはどんなことが書いてあるのか等々、会話に花が咲く。
魔導書に目を通すならトレモロにもう少し滞在するか、とキースは提案したが、アルトはそれを断っていた。
自分自身のためにも、テナのためにも、そして心配してくれていたレシェンタやキースのためにも、テイマーとして早く一人前になりたいのだ。
もちろん魔導書の中身も気になったが、まだレシェンタにも魔法を教わっている最中なのだ。
魔導書の方は、旅の間にゆっくりと読み進めていくつもりでいる。
と、ふとアルトが立ち止まる。
「どうした?」
「この先、魔獣がいるよ。ガルザと同じか少し強いくらい…たぶんCランクくらいだと思う。数は1体かな。」
「わかった、ありがとな。んじゃ一応、警戒しながら進むとしよう。」
「うん!」
レシェンタは杖を取り出し、キースは剣の柄に手をかけつつ歩く。
テナにも声をかけようと思ったアルトだったが、カバンの中でスヤスヤと眠っていたので起こさないことにした。
急に成長したことによる影響か、中身はまだまだ子猫なだけなのか、テナは寝ている時間が比較的長いのである。
「あれ?なんだか魔獣がこっちに向かってきているような…」
しばらく歩く途中にアルトが言葉を首を傾げた直後―――
「キャアアァッ!」
「うわあぁ!」
「助けてくれー!」
――街道脇の森の中から、複数の悲鳴が聞こえた。
顔を見合わせて頷き、悲鳴の聞こえた方向へと同時に駆け出したアルト達。
「っ!!!」
その先でアルト達が目にしたのは、大きな蜘蛛の魔獣と、それに襲われている冒険者たちだった。
一人は血を流して倒れており、二人は糸でぐるぐる巻きにされて転がされている。あとの一人が他の三人を庇うように立って槍を構えているが、ガクガクと震えていて今にも倒れそうだ。
キースは剣を抜き、レシェンタは杖を構えたが、アルトの魔法が炸裂する方が早かった。
「【炎弾】!」
「ギイィィィィ!」
ドドドッと複数の【炎弾】が命中し、黒焦げになった蜘蛛の魔獣はその場に倒れた。
「無詠唱魔法…私も練習してみようかしら。」
杖を見つめながらポツリと漏らすレシェンタ。その隣で、剣を鞘に納めて頭を掻くキース。
「おー、頑張れ。成功したらお前も賢者になれるかもしれないぞ。」
「絶対思ってないわよね。」
「思ってる思ってる。応援してるぞー」
そんなとりとめのない会話をしていると、槍を構えていた冒険者が駆け寄ってきた。
「助けてくれてありがとうございました。あの、このご恩は一生忘れません!」
そう言って彼はレシェンタに深々と頭を下げていた。
読んで下さってありがとうございます。
誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m
ブックマークや評価、いいね等で応援していただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!