第119話 賢者の魔導書
アルトの二つ名を“魔導の賢者”に変更しました。
「あー、無知で申し訳ないんですが、先ほどから言っている“賢者の魔導書”とは一体…?」
遠慮がちに話に割って入ったのはキースだった。その隣で、アルトもこくこくと頷いている。
そういえば説明がまだだったかと、ギルマスとレシェンタは“賢者の魔導書”について話し始めた。
一般的な魔導書――マギア向けの魔法の教科書のようなもの――は初級、中級、上級と三種類が存在する。
が、“賢者の魔導書”はそれらとは一線を画す、特別な魔導書である。
というのも“賢者の魔導書”はこの世界に数冊しか存在しないと言われている、特殊なマジックアイテムなのだ。
一定以上(それもかなり大量)の魔力を持つマギアでなくては、“賢者の魔導書”を開くことはおろか、触れることもできない。
また魔導書に選ばれた所有者のみが、その内容を読むことができる。
ちなみに、詳細の複写は不可能。
口伝で伝えようとしても、なぜかうまくいなかいらしい。
どれも不思議なことだが、“マジックアイテムだから”と無理矢理にでも納得せざるを得ない状況らしい。
それから、書いてある内容――二つ名も含めて――は所有者によって変化する。
文献によると、極大魔法の詠唱文であるとか、複数属性の魔法の組み合わせ方だとか、普通の魔法使いにはとうてい実現できないような内容であると記されている。
「二つ名って?」
「異名というか、称号というか…“○○の賢者”っていうやつよ。丁度さっきアルトが読んだ箇所ね。」
レシェンタの言葉に、アルトは先ほど自分が口にした文章を思い出す。
――汝を魔導の賢者と認める――
つまり、アルトは“魔導の賢者”となったのだ。
「“賢者の魔導書”は、所有者となったマギアの特徴や得意な魔法などに応じて、固有の二つ名を与えるのじゃ。歴史上同じ二つ名をもつ賢者が存在したかは、定かではないがの。」
「それにしても“魔導の賢者”…どういうことかしら。魔導書に認められたという意味なら、賢者は皆そうだから、特筆することでもないように思うけれど。」
首を傾げるレシェンタの肩を、キースがポンと叩く。
「アルトはどんな属性の魔法も区別なく使えるからとか、オリジナルの魔法をいくつも作ってるとか、考えられる理由はいろいろあるだろう。」
「それもそう……ね。」
まだ納得いかない様子のレシェンタだったが、これ以上考えても仕方ないと判断したのか、悩むのをやめたようだ。
「えっと、ギルマスさんにも二つ名があるんですよね。」
「もちろん。わしは“迅雷の賢者”であったよ。」
朗らかにアルトの質問に答えるギルマス。
その二つ名を聞いたレシェンタが驚いたような声を上げるが、ギルマスは何でもないことのように話を続ける。
「その話はさておき…アルト、お前さんはわしと、その魔導書に選ばれた次代の賢者なのじゃ。」
急に真剣な表情を見せたギルマスの言葉に、ゴクリと固唾を呑むアルト。
「“賢者の魔導書”のもたらす力は強大じゃ。精霊とも契約しているお前さんならば大丈夫だとは思うが、くれぐれも力の使い方には注意するんじゃぞ。」
「はい。」
アルトの返事にうんうんとにこやかに頷いたギルマスは、次にキースとレシェンタ、エメラ、コハク、そしてテナに目を向けた。
「それから…そこなお二方と、精霊のお二人、そして従魔さんや。この若い賢者を、よろしくの。」
「「は、はい。」」
思わずピシッと背筋を伸ばして答える大人二人。
一方、精霊たちとテナはいつも通りの様子で答えた。
「言われなくても、そのつもり。」
「ええ。私たちに任せておいて。」
「にゃあ!」
それからアルト達は、賢者ならば知っているかもと、色々と疑問に思っていたことをギルマスに尋ねてみた。
闇の魔法のマジックアイテムや、アルトの作った魔法石などについて――
それらの話にいたく興味を示したギルマスだったが、詳しいことはわからないと残念そうに首を振った。
それでも、もし何かわかったらレカンタのアー坊に手紙を送る、と約束してくれた。
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