第118話 封筒と本
翌日――
言われた通りに冒険者ギルドを訪ねたアルト達は、ギルマスの執務室へと通された。
「よう来たの。それで渡したいものじゃが…それじゃ。」
ギルマスが杖で示した机の上には、一通の封筒と一冊の本が置かれていた。
「封筒の方は、紹介状じゃ。ここから街道沿いに進んで3つ先にある“ペザンテ”という町…そこにわしの知人のテイマーが住んでおる。話は通しておくから、訪ねてみるといい。」
「わぁ、ありがとうございます!テナ、他のテイマーさんに会えるんだって。これで僕もテイマーらしくなれるかな?」
他のテイマーに会えると知って、大はしゃぎのアルト。
年相応の姿を見せるアルトに目を細めていたギルマスだったが、軽く咳払いをして話を続ける。
「それから、本の方じゃが…それは“賢者の魔導書”じゃ。」
「えぇ!?」
驚きの声を上げたのはレシェンタだった。彼女は驚愕の表情を浮かべ、ギルマスと魔導書とを何度も見比べている。
キースも精霊たちも、勿論アルトも、何のことかわからずキョトンとして首を傾げている。
「アルトや…そっと、魔導書に触れてみなさい。」
レシェンタが何かを言おうとしたが、ギルマスがスッと手でそれを制する。
ギルマスに言われた通り、アルトはゆっくりとその魔導書に手を伸ばした。魔導書にアルトの指先が触れると、触れた箇所がポゥッと淡く光った。
その様子を見て、レシェンタがはっと息を呑む。
「上々じゃ…それでは、手に取って開いてみなさい。」
何が“上々”なのかはよくわからなかったが、魔導書を手に取って最初のページを開くアルト。
「何が書いてあるか、読めるかの?」
「は、はい。読み書きは一通り教わったので。えっと…“汝を……魔導の賢者と認める”?」
その様子を見て満足気な笑顔を浮かべるギルマスと、目を見開いて驚くレシェンタ。
「以前わしが使っておったものじゃが…譲る相手が見つかってよかったわい。ああ、もう閉じて大丈夫じゃ。上手に使いなさい。」
「は、はい。ありがとうございます!」
「あの…失礼を承知でお尋ねしますが、これは本当に本物の“賢者の魔導書”なのですか?」
おずおずと質問をするレシェンタに、ギルマスは嫌な顔一つせずに答える。
「もちろんじゃとも。試しに、君が触れてみるかね?」
「え…」
ギルマスからの提案に、目を丸くするレシェンタ。
「なぁに、指先だけそっと触れる程度じゃ。それなら、大ごとにはならんじゃろう。」
「わ、わかりました。アルト、ちょっといいかしら。」
「うん、いいよ。」
ゴクリと喉を鳴らしたレシェンタが、そうっと人差し指の先で魔導書に触れると――
「っ!!!」
バチッと音がして、何かにレシェンタの指が弾かれた。
まるで、“賢者の魔導書”が触れられるのを拒絶したかのように。
「え?今のって…」
「資格のない者――所有者以外が“賢者の魔導書”に触れようとすると、こうなるのよ。」
弾かれた指先をじっと見つめ、やっぱりねと苦笑するレシェンタ。
「魔力量が足りていれば触れるくらいはできるらしいんだけど…私は足りなかったみたいね。これは本物で間違いないと思うわ。」
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