第116話 呼び出し
翌日、宿に泊まっているアルト達のもとに、ギルドの職員がやってきた。
ギルマスからの呼び出しだそうだ。
不思議に思いながらも冒険者ギルドを訪ね、またもや別室へと案内されるアルト達。
「呼び立ててすまんかった。ただ、お前さんたちにいくつか確認したいことがあっての。」
「何でしょうか。」
何かやらかしてしまっただろうかと、緊張した面持ちのキースとレシェンタ。
アルトもそんな二人の緊張感を察したのか、きゅっと身を引き締めている。
そんな様子を見て、ギルマスは愉快そうに笑った。
「そう構えんでも、取って食いやせんわい。お前さんたち、ここへ来る前の村ではトレントの討伐をした、と言っておったの。」
「はい。」
「それ以外にも、何かしたじゃろう。」
そう尋ねるギルマスの表情には、アルト達を責めるような感情は全くなかった。
それどころか、どこか面白がっているような雰囲気すら感じられる。
「それ以外…」
ギルマスの言葉に、アルトがやった色々なことを思い浮かべるキースとレシェンタ。
どこから話せばいいかと二人が迷っていると…
「村の人たちが困っていたので、魔法でお手伝いをしました。」
あっけらかんと、端的に、そして物凄く抽象的に、アルトが言った。
そのあまりにも大雑把なまとめ方に、キースとレシェンタはソファからずり落ちそうになった。
一方、ギルマスは一瞬目を丸くしたのち、愉快そうに大笑いした。
「ほっほっほ!そうかそうか、魔法でお手伝いをのぅ……それはお前さんひとりの魔法でかの?」
「いいえ。コハクの力も借りました。それに、レシェンタさんとキースにも色々と教えて貰って…」
「なるほどなるほど…実はの、お前さんたちが件の村で何をしたかは、既にこちらでも把握しておる。念のため、ギルド職員を村へ派遣したのでな。」
ギルマスの言葉に、ゴクリと息を呑むキースとレシェンタ。
「なぁに、誰も怒っておりゃせん。村の衆はお前さんたち…特にアルトのことを、崇めんばかりに感謝しておったよ。」
「じゃがの…あれだけのことをしたのであれば、こちらにも報告はしてほしかったぞ。噂が広まれば、騒ぎになりかねんからな。」
「?」
キョトンとしているアルトに、ギルマスは目を見開いた。
「なんと、本人に自覚はなしか。」
それから、ギルマスはアルト達がどれほどのことをしたのかを語って聞かせた。
雨を降らせる魔法はあるが、一度で村丸ごとに雨を降らせるなど通常はあり得ないこと。
ため池を作るのにアルトが使った土魔法も水魔法も、その規模が桁違いに大きかったこと。
――普通の魔法使いならば、一度の土魔法ではせいぜい1メートル四方程度の落とし穴を掘るのがやっとである。
それに対し、アルトは20メートル四方ものため池を作り、更に水魔法で一瞬にしてそれを満たしてしまった。
土壌の養分を回復させる魔法など聞いたことがないこと。
――これに関しては精霊であるコハクの魔法だが、村人の間ではアルトがやったことになっていた。
やむを得ずとはいえ、嘘をついていたことをギルマスに詫びるアルト。
理由を聞いたギルマスはすんなりと納得した。
が、この件を大ごとにしないように収める代わりにと、あるお願いをしてきた。
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