第12話 ガルザの群れ
【飛行】の魔法でエメラと森の中を飛んでいるアルトの手元には、キラリと光る指輪とブレスレット。それぞれに、赤と青の魔法石をはめ込んである。
しばらく飛んでいると、近くに複数の魔力を感じた。魔力に波があり昂っている様子から、恐らく戦闘中なのだろう。
しかし、複数…正確には8つの比較的強めの魔力とは別に、傍に弱い魔力をひとつ感じた。
「エメラ、ちょっと気になるんだけど、あっちの様子を見に行ってみてもいいかな?」
「アルトがそう言うなら仕方ないわね。でも、気を抜かないようにね。」
「うん!」
急いで魔力を感じた方角を目指していくと、剣を構えた赤い髪の男性が、一人で魔獣の群れと交戦しているところに出くわした。気づかれないように、木の上で息を殺して様子を見るアルトとエメラ。
「ちっ…なんだってこんなトコにガルザの群れなんかが!?」
ガルザというのは、男性が対峙している魔獣たちのことだろう。灰色の身体に黒のまだら模様の、狼のような姿をしている。
先ほど感じた8つの魔力はあの魔獣たちで間違いない。では、あとひとつの魔力の持ち主は…?
もしかして、あの男性だろうか。だとすると、彼も自分と同じマギアかもしれない。
ドキドキしながらアルトがもう一度魔力感知に集中してみると、男性とは別の方向から例の魔力を感じた。少しがっかりしながらも、魔力を感じた方向を注意深く見ていると…
「見つけた。」
木の陰に、小さな黒猫がいた。
あの距離では戦闘に巻き込まれかねないので、とりあえず子猫の周りにこっそりと【障壁】の魔法をかけておくアルト。
「エメラ、一応あの子猫の傍についていてくれる?バリアを二重にしておいたから、あの子がエメラに襲い掛かることもないと思う。」
「任せて。アルトはどうするの?」
「邪魔しないようにここで見てるよ。急に割って入ると危なそうだからね。でも、あの男の人が危なくなったら…助けようと思う。」
「わかったわ。それじゃ、行ってくるわね。」
エメラはウインクをすると、ひらりと羽ばたいて子猫の傍へと降りて行った。
アルトが戦闘に視線を戻したのとほぼ同時に、一体のガルザの爪が男性の右肩を掠めた。
「ぐあっ!…っ畜生!」
男性が反射的に右肩を押さえた瞬間、8体のガルザが同時に彼に飛びかかった。
「っ!!!!」
「【障壁】!」
「ガウゥ!!!」
間一髪だった。
魔獣たちが飛びかかり、男性がこれまでかと目をぎゅっと閉じた瞬間、アルトが魔法で彼を守ったのだ。
「え?」
男性が何やら不思議そうな顔をしているが、今は説明している場合ではない。
空中で透明な何かに衝突し、跳ね返って倒れたガルザたち。しかし、すぐに立ち上がってグルルと唸り声を上げる。
これで退いてくれれば楽だったのだが、そうもいかなかった。ガルザたちがもう一度男性に向かって飛びかかろうとしたため、炎の剣を創りつつ、木から飛び降りるアルト。
「【炎造形】、【身体強化】。」
落下の速度を利用して剣を振り下ろし、真下に居たガルザを倒すアルト。【身体強化】のおかげで、着地による痛みはない。
続けて剣を振り、向かって来るガルザを次々に倒していく。赤い髪の彼の攻撃が効いていたのか、ガルザ達の動きが悪くて倒すのは簡単だった。
しかし、最後の一体が逃げようと方向を変えた。その先には…エメラと子猫がいる。
「っ危ない!【炎弾】!」
アルトは慌てて炎の球を2発ほど撃ち、最後のガルザを倒した。
「ふぅ、これで終わり…かな。」
エメラも子猫も無事のようだ。視線を男性の方に戻すと、彼はバリアの中で倒れていた。
「た、大変だ!大丈夫ですか!?」
アルトは急いで男性に駆け寄った。
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