第115話 知らないのも無理はない
「あ、それじゃあ俺からもいいですか。」
「もちろん。」
次に手を上げたのはキースだった。
「一角黒豹と戦ったとき、やたらと攻撃を避けられた気がしたんですが…」
「それはそうだろうね。一角黒豹は危険を察知する能力がずば抜けて高いんだ。その察知能力は予知に近いとさえ言われているんだよ。」
「えぇ!?」
冗談のような新情報に大声を上げて驚くキース。
「このことは最近発表された論文に記されていたことだから、君たちが知らないのも無理はないだろうね。」
モデストは更に話を続ける。
「一角黒豹は他の魔獣に比べて子育ての期間が長いからね。だから子供を守るために、こういった感覚が研ぎ澄まされたんじゃないかと言われているんだ。」
「へぇ、テナって本当に凄いんだね!」
無邪気に喜ぶアルトの横では、何とも言えない微妙な表情のキース。
魔獣と戦う冒険者としては“予知”などというとんでもない能力を持つ魔獣の存在など、脅威でしかない。
半面、その脅威となりうる存在が味方である現状に安堵も覚えている。
それらの感情がない交ぜになっての微妙な表情なのだが、それに気づくものはいなかった。
その後、アルトは一角黒豹の生態――好物や食べられないもの、攻撃の手段、身体の発達や手入れについてなど――についてモデストから教わった。
そして、最後にモデストからの怒涛の質問攻めにあった。
テナのこと、精霊たちのこと、これまでに戦った魔獣のこと、それにアルト自身のこと。
横で聞いていたキースは、よくもこんなに質問が尽きないものだと感心してしまった。
レシェンタなど、そのあたりに重ねてある本をパラパラと捲って時間を潰している。
モデストの数多の質問に対し、嫌な顔一つせず丁寧に答えていたアルト。
しかし、さすがに疲れが出てきたようだった。
「モデストさん、そろそろ…」
時計を見て話に割って入るキース。
「おや、もうこんな時間だったんだね。ごめんごめん、つい夢中になりすぎたみたいだ。」
時計を見て目を丸くするモデスト。アルト達が訪ねて来て、もうすでに3時間近くも経っていた。
「お詫びにお昼をご馳走しよう。近くにおいしいお店があるんだ。」
その後、モデストおすすめのお店で昼食をとったアルト達。
しかしそこでも、子猫の姿のテナがミルクを舐めるのを、自身の食事そっちのけでじっと観察するモデスト。
その様子に、学者の知識欲と集中力に感服しつつも呆れた一同だった。
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