第112話 紹介状
カバンからぴょんと飛び出したのは、子猫の姿のテナ。続けてエメラとコハクもヒラヒラと羽ばたきながら出てきて、すっと姿を見せる。エメラたちもこの老ギルマスを“姿を見せてもいい相手”と判断したようだ。
「これはこれは…お目にかかれて嬉しいのう。」
そう言って目を細めるギルマスだが、その細められた目の奥は鋭く光っている。アルトや精霊たちがどの程度の力を持つ存在なのか、見極めようとしているのだろう。
「いやはや、精霊に会うのは久方ぶりじゃて。ふたりの精霊と契約した年若いマギア、それが従魔をもつテイマーでもあるとは…長生きはするもんじゃのぅ。はて、こちらの従魔は…?」
ギルマスが疑問に思うのも仕方がないだろう。魔力こそ感じられるものの、今のテナの外見は完全に普通の黒い子猫なのだから。
「にゃあ!」
テナは一声鳴くと、しゅるる、と大人の一角黒豹へと姿を変える。
「なんと…!」
驚いて言葉を失うギルマスだったが、それには気付かないアルトがすらすらとテナを紹介する。
「この子は一角黒豹で、テナと言います。一緒に旅をするために、姿を変える魔法を覚えてくれたみたいで、とってもいい子なんですよ……あの、どうかしましたか?」
目を瞬かせて硬直するギルマスの様子に、首を傾げるアルト。
そんなアルトの肩をポンと叩き、やれやれと首を振りながらフォローするキース。
「あー、アルトは田舎育ちで、世の中のアレコレを今勉強している最中なんです。だから、自分やその周囲の何がどう凄いのかよくわかっていなくて…」
「なるほどのぅ…無知は弱さじゃと思うておったが、一概にそうとも言えんようじゃの。」
ギルマスの言葉の後半がよく聞こえず、首を傾げるアルト。
「いやいや、こちらの話じゃ。ところで、彼女らと協力してトレントを倒したという話じゃが…詳しく聞かせてくれるかの。」
アルト達は、トレントとの戦いについてギルマスに詳しく話した。
一通り話を聞くと、ギルマスは感心したようにほぅ、と息をついた。
「なるほど、よくわかった。久々に刺激のある話で楽しかったぞ。この町で何か困ったことがあれば、遠慮せず何でも相談するがよい。」
そんなギルマスの言葉に、スッと手を上げたのはレシェンタだった。
「あ…でしたら、この町にテイマーの方がいらっしゃったら、紹介していただけませんか。」
「テイマー?」
「はい。アルトには、魔法に関しては私ができる限りのことを教えています。ですが、テイマーや従魔に関しては師となる人がいなくて…」
レシェンタの言葉に目を見開くアルト。
(レシェンタさん、そんな風に僕のことを考えてくれていたんだ。)
「なるほど、それでテイマーか。生憎と今この町にはおらんが…むむ。」
立ち上がって、ゆっくりと部屋の中を歩き回りながら考えるギルマス。
そしてはたと立ち止まり、くるりとアルト達の方を向いた。
「おお、そうじゃ!テイマーはおらんが、この町には魔獣学者がおるぞ。興味があるのなら紹介状を書くが…どうする?」
「っ!本当ですか。」
レシェンタは目を丸くしたが、その表情はどこか嬉しそうだ。
「勿論だとも。」
「レシェンタさん、魔獣学者って?」
「その名の通り、魔獣について研究している専門家よ。一角黒豹のこととか、従魔のこととか、色々と聞けるかもしれないわね。」
レシェンタの言葉に、目を輝かせるアルト。
「本当?それなら僕、会ってみたい!」
トントン拍子で話は進み、アルト達はギルマスに紹介状を書いてもらうことになった。
それからトレントの討伐報酬と素材の買取報酬を受け取ったのち、一行は冒険者ギルドを後にした。
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