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第110話 開いた口が塞がらない

村人たちがその場で話し合った結果、川の水をせき止めていた根を破壊して元通りに水を流すことになった。

とはいえ、川に再び水が流れ始めたからといって、すぐに村や荒れた畑が元通りになるわけではない。


そこで、アルトは村全体に魔法で雨を降らせた。アルトの脳裏には一瞬、生まれ育った村の情景が浮かんだ。

(あの村にいた頃も、晴れの日が続くとこうやって村に雨を降らしていたっけ。)


土の精霊であるコハクは、畑の土を元通り(実はそれ以上)の肥沃な土へと変えた。

コハクの存在は村人には明かしていないため、これもアルトがやったことにした。


手柄を奪うような真似にアルトは渋い顔をしたが「コハクの契約者だろ。ある意味、連帯責任だよ。」とキースに言われ、渋々ながら納得した。


また、レシェンタの発案で農業用水のため池を作ることになり、それもアルトが土魔法であっという間に作り、水魔法でなみなみと満たした。

今後は、元通りになった川から水を引く仕組みになっているらしい。


アルトの魔法の数々を見た村人たちは、もう開いた口が塞がらない状態になってしまっていた。



「いやぁ~、何から何まで、本当にお世話になりました。何とお礼を言えばよいか…」


「気にしないでください。僕たちがやりたくてやっただけなので。」


朗らかに答えるアルトに、目を見開く村長。


「ですが、何かお礼をしませんと。」


「トレント討伐の報酬はギルドから貰えますので。ただ、ギルドの職員が聞き取り調査に来た場合は、応じてもらえると助かります。」


「ええ、それは勿論。」


キースの言葉に、大きく頷く村長。


「そうではなくてですね、どうかこちらをお受け取りください。足りるかはわかりませんが、感謝の気持ちです。村の皆で出し合いました。」


そう言って村長が差し出したのは、お金が詰まった袋だった。アルトは慌てて受け取りを拒否するが、村長も譲らない。見かねたレシェンタが「ここは私が…」と対応を買って出る。


アルト達から少し離れたところへ移動し、レシェンタは村長から袋を受け取って中身を確認する。ようやく受け取ってもらえてほっと胸を撫で下す村長。


「ありがとうございます。ところで、この村に馬車か荷車はありますか?できればそれを引く馬も。」


「え、ええ、ございますが…」


「では、それで私たちを隣の町まで送ってくださいな。これはその代金です。」


そう言って、レシェンタは先ほど受け取った袋から貨幣を数枚取り出し、それを…ではなく、残りの袋の方を村長に手渡した。


「え、えぇ!?」


驚いてレシェンタの手元と自身の手元とを何度も見比べる村長。


「お気持ちは嬉しいのですが、今回の件はもともと私たちのお節介です。ギルドも通していませんし、村のどなたかから依頼があったわけでもありません。」


狼狽えている村長を落ち着かせようと、レシェンタは努めて穏やかな口調で話す。


「一番の功労者のアルトもあの通り、お金を受け取ろうとはしませんし…」


そう言って苦笑しながらアルトを見やるレシェンタ。それに次いでアルトの方へと視線を向ける村長。孫ほどの年齢の少年に向けられるその眼差しには、驚きと畏敬の念が込められている。


「ですが、あなた方のご厚意を無下にもできませんので、一度は受け取ります。そしてそれは、私からの依頼料です。そのお金を、村の復興に充ててくださいますか?」


そんなレシェンタの言葉に、村長は涙ぐみながら返事をする。


「はい…はい。もちろんですとも。」


「ああそうだ、大切なことを言うのを忘れていました。彼ほど強く、無欲で、世間知らずな冒険者は非常に稀有な存在です。」


彼――と口にしたレシェンタの視線の先には、テナとじゃれているアルトの姿。


「今後もしまた冒険者に助けられる機会があったならば、その時も今回と同じように感謝の意を示してあげてください。本来、お金はあって困るものではありませんからね。」


そう言ってウインクをするレシェンタに、呆気にとられる村長。


「はは…おっしゃる通りですな。ええ、ええ。そのようにしましょう。彼…アルトさん、と言いましたか。彼はきっと、特別な子なのでしょうね。」

読んで下さってありがとうございます。


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