第109話 やっと終わった
3分ほど経った頃、トレントの攻撃がピタリと止んだ。地面から伸びてうねうねと動いていた根もぱたりと動きを止め、力なく地面に倒れていく。
「やっと終わったみたいね。」
「そうだな…っと、そうだ。みなさん、もう大丈夫!怪我をした人は?」
キースの問いかけに答える者はおらず、村人たちはシーンと静まり返った。
「あの…?」
少しの沈黙の後、村人たちがわっと歓声を上げた。
駆け寄ってきた村人たちにもみくちゃにされるキースとレシェンタだったが、村長の息子が慌てて村人たちをいさめ、皆を落ち着かせた。
とはいえ彼自身も、今しがた目の当たりにした高レベルな戦いの興奮が冷めやらぬ様子だったが。
「レシェンタ、ここは任せるぜ。」
「わかったわ。」
騒ぎから抜け出したキースはコハクと共に、急いでアルトの元へと向かう。
「アルト、テナ、終わったぜ。」
「うん、もう完全に魔力を感じなくなったよ。それで、この川を塞いでる大きな根っこ…どうしよう?」
そう言ってアルトが指すのは、川をせき止めたままのトレントの根。ちなみにアルトの魔法でカチカチに凍りついている。
「これは…放っておくと川の上流が溢れちまうな。むしろここをちゃんと水が流れれば、村の方にも水がいくようになるだろう。」
「じゃあ、壊しちゃった方がいい?」
アルトの問いに、うーんと考え込むキース。
「最終的にはな。だが一応、村の連中に相談してからにしよう。」
「そうだね、わかったよ!」
◇
「なるほど。トレントは地上部分を倒しても、しばらくは根が動いて攻撃してくる場合がある、と。」
「はい。トレント本体の疲弊具合や栄養状態にもよりますが、一般的には数秒から数十秒と言われています。」
レシェンタの説明に「数秒から数十秒…?」と疑問符を浮かべる村長の息子。合流したキースが、彼の様子に苦笑しながら説明を付け加える。
「今回は周辺から大量の水分や養分を吸い上げたことで、トレントもいわゆる満腹状態だったはずだ。それに、本体はほとんど戦っていない状態だったから、余力が残っていたというか…より根の動きが活発になったんだろう。」
「なるほど!では本来は本体との戦いもあんなにあっさりと終わるものではないんですね。」
「ああ。今回の討伐は……かなり特殊な戦いだったと思ってほしい。彼と比べられては、他の冒険者が気の毒だ。」
キースが“彼”と指す先には、テナを褒めながら撫でているアルトの姿があった。
「なるほど。まだ幼いのに…彼は随分と凄腕の魔法使いなのですね。」
「その通り。ところで、川の水について相談したいことが…」
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