第108話 樹の魔物(トレント)
それから少し歩くと、川沿いにぽつんと一本の樹木が立っているのが見えた。キースの予想通り――トレントだ。
その太い根は川を横断してせき止めるような形になっている。不思議なことに、根よりも下流にはひとすじたりとも水が流れていない。
レシェンタが村人たちに“魔獣はBランクのトレントだった”と伝えると、村人たちは一気にざわめいた。
「村の異変は魔獣の仕業だったのか」「なんと恐ろしい」「はやく倒さないと」などと、様々な感情や言葉が飛び交う。
「皆さん落ち着いてください。大丈夫、きっと冒険者の方々が対処してくれます。素人の我々は下手に動くべきじゃない、そうでしょう?」
村長の息子の問いかけにレシェンタとキースは力強く頷く。彼の言葉で、混乱していた村人たちはいくらか落ち着きを取り戻したようだ。
事前に立てていた作戦通り、レシェンタとキース、それから姿を消したままのエメラとコハクは、村人たちと共にその場に残る。
攻撃のメインはアルト。テナはその援護だ。
まずはトレントから数メートル離れた場所で、アルトが炎魔法の大技を放つ――
「【爆炎】!」
それは冒険者ギルドの地下試験場にある例の的に、風穴を開けた大技だった。
ドオォォォン!
と轟音を立て、トレントの地上部分のほとんどが消し飛んだ。
「わぁお。」
「予想はしてたが…さすがだな。」
ぽつりと独り言を漏らすレシェンタとキース。
あまりの威力の魔法に、呆気にとられる村人たち。彼らは数秒後にハッと我に返り、脅威は去ったと喜んだ。
しかし――
「皆さん気を抜かないでください!むしろ危険なのはここからです!」
レシェンタの言葉に疑問符を浮かべる村人たち。
(トレントはもう倒したのに、一体何の危険が…?)
「がうっ!」
テナが一声吠えた次の瞬間、アルトの足元から鋭い木の根が何本も飛び出してきた。
「っ!?!?!?」
驚く村人たちだったが、アルトは【身体強化】をしたジャンプで難なく避ける。
「【氷造形】」
着地すると同時に氷の剣を造り、根を次々と切り捨てていくアルト。この剣は氷でできているだけでなく、氷の魔力も纏っている。そのため、切り口は凍りつき、そこから根が再び伸びることはない。
テナは次々に飛び出してくる根にすぐさま雷を落としたり、爪や牙で攻撃したりする。そうして動きが鈍ったところをアルトが氷の剣で切り、あるいは【炎弾】を飛ばして炭にしてしまう。
村人たちはその鮮やかな連携に目を奪われていた。
しかし、そんな彼らにも危機が迫っていた。
そもそも、トレントは他の生物を攻撃し、捕食する魔獣だ。その対象には人間も入っている。どうやって生物を感知しているのかはわからないが、トレントの根の一部は村人たちの方を狙っていた。
「っ危ない!」
村人たちのすぐ近くの地面から飛び出した根を、キースが切り捨てる。アルトのように切り口を凍らせることはできないが、これだけ距離が離れていればさほど問題はない。
本体から離れれば離れるほど、切り口から次の根が生えてくるのには時間がかかる。そうでなくとも、トレント本体の地上部分はほぼ吹き飛んでしまっているのだから、それほどの生命力は残っていないのだ。
「【火球】!」
詠唱時間をキースが稼ぎ、レシェンタの魔法で一層する。こちらも見事な連携だった。
「すっげぇ…」
「彼らはどうして根が生えてくる場所がわかるんだ?土の中が透けて見えてるのか?」
村人たちの疑問はもっともだ。彼らには知る由もないことだが、それは【魔力感知】によるものだった。
アルトは自分で、レシェンタとキースは、それぞれ姿を消して肩に乗ったエメラとコハクから【魔力感知】で感知したトレントの根の場所を教えてもらっていた。それにより、根が地面から出てきたところを即座に攻撃できていたのだ。
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